ソール・バス
8月8日に放送されたカンブリア宮殿。
佐藤可士和さんがデザインしたヤンマーの新たなブランドロゴが紹介されていました(『こちら』)。
(右はエンブレムになった状態のイメージ)
強さと未来が感じられるデザイン。
さすがです。
番組を見ていて、興銀時代に海外広報を担当していた時のことを思い出しました。
今から30年以上も前のことです。
当時私は26歳。
留学から帰って最初に配属された部署が海外広報を担当するセクションでした。
電通、博報堂などの広告代理店、海外メディアなど、さまざまな人たちが訪問してきました。
一度ソール・バス(Saul Bass)のエージェントの訪問を受けたこともあります。
ソール・バスと言えば、ユナイテッド航空、クウェイカー・オーツ、AT&Tなど数々の米企業のブランド・ロゴマークを手掛けたデザイナー。
当時すでに海外でよく使われていた興銀の「IBJ」という略称。
この「IBJ」を彼にデザインさせ、ブランドロゴ化させてはどうかという提案でした。
「いったい幾らくらいかかるのですか」
こう聞くと、エージェントは概算ということで金額を提示してきました。
けっして安くはありませんでしたが、エージェント氏いわく、
「ソール・バスのアプローチは顧客企業の過去と未来(戦略、方向性)を理解したうえで、それをロゴマークに落とし込むというもの。
何人もの経営陣にインタビューさせていただくことになります」
ソール・バスに「IBJ」をデザインさせたら、どんなものになるだろう、と興味が湧いてきました。
そして、このデザインは興銀が海外展開するうえでの武器になるような予感もしてきました。
しかし残念ながら担当者(私)の力不足もあって、最終的にはこの話は通りませんでした。
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ところで若者のクルマ離れということが言われて久しくなります。
トヨタは多額の費用をかけてテレビでジャン・レノ扮するドラえもんのCMや信長がキムタクの姿となって現在に蘇えるというCMを流しています。
しかしはたしてこれで若者のクルマ離れに歯止めがかかるかどうか。
そもそも公共交通網が発達した都会で人はなぜクルマを欲するのでしょうか。
ここから先は私のまったくの個人的な見解なのですが、私には答えは映画「三国志(レッドクリフ)」や「アバター」のなかにあるように思えてきます。
どちらも馬(アバターの場合は空飛ぶバンシー、レッドクリフの場合は、子馬「萌萌」を最後、諸葛亮へプレゼントするシーン)が出てきます。
昔から、そして未来でも、人間は自分たちよりも力(horse power)があって、速く走れる「馬」のようなものを本能的に欲したし、欲するのではないでしょうか。
さらにそれが美しく力強い馬であれば権力の象徴になったのかもしれません。
そう言えばポルシェやフェラーリのエンブレムは跳ね馬であり、
フォード・マスタングも馬(そもそもマスタング mustang は野生馬の意味)。
ジャガーのエンブレムは(馬ではありませんが)ジャガー(ネコ科ヒョウ属)で
ランボルギーニは闘牛。
プジョウーは百獣の王、ライオンです。
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トヨタのエンブレムはTの字を連想させながらも、未来や宇宙を感じさせます。
「21世紀に間に合いました」といって1997年にプリウスを世に送りだしたトヨタにはピッタリ来ます。
しかし古来から人間が馬に求めてきたような「本能的な欲望」にうまく突き刺さるのかどうか。
「人類がもしクルマを一台だけ持つことが許されるとしたら、それはスポーツカーになるだろう」
かつてポルシェ博士はこう発言したと言いますが、人がなぜクルマを欲するかを突き詰めていかないと現代の若者のクルマ離れは止められないような気もしてきます。
もし仮に佐藤可士和さんにトヨタのエンブレムをデザインさせたらどんなものになるのか、見てみたい気がしてきます。