たった1、2行
みずほ問題。
第三者委員会の中込委員長が会見で
「(反社向け融資の記録は取締役会に提出された)膨大な資料に1、2行記されただけで、これに気付くことは到底無理」
と説明したと報じられています(『こちら』)。
この説明には違和感を持った人も多いかもしれません。
私は全くの部外者で実情も知らないので何とも言えませんが、
これまで経営コンサルタントとして数多くの会社の取締役会や経営会議に陪席してきた経験からすると、多くの会社では役員会の議事録に残すのはそれこそ「たった1~2行」の結論部分のみ。
それとは別に、実際の会議ではA4やA3の一枚紙が担当役員から配布されてきて、その説明資料に基づき個別案件が説明されるのが一般的です。
しかも秘匿性の高い案件についてはこの種の1枚紙は会議後回収されてしまい出席者の手には残りません。
「オリコ提携ローン」という複雑なスキームの案件をこの1枚紙なくして説明するのは至難の業だったとは思うのですが、真相は藪の中。
ただし-ここから先がもう一つのポイントなのですが-、
仮に(たった1~2行ではなく)きちんとした資料を使って役員会で説明がなされたとしても
出席役員の「記憶に残らなかった」ということは十分あり得ることだと思います。
そもそも役員会で議論される案件には決議事項と報告事項とがあり、決議を要求されない報告案件は出席役員の関心の度合いが低くなる傾向にあります。
しかも、どうでしょう。
1~2週間に1回、この種の役員会なり経営会議が開かれ、毎回5件くらいの案件が付議されるとして、年間100件なり200件の案件が役員による審議の対象となる計算。
出席する役員のなかには、たまたま海外出張から帰ってきたばかりで時差による睡魔と闘っている人もいるかもしれません。
それでなくともみずほのような巨大金融機関では重要案件が次から次へと回ってくるというのが実情だと思われます。
「日銀が大規模緩和を続ける中、みずほの国債保有は如何にあるべきか」
「東電への支援はどうするか」
などなど・・・。
判断を一歩間違えれば銀行の屋台骨を揺るがすような案件です。
受験勉強を勝ち抜いてきた大銀行の経営陣は、試験に出るような重要問題には人一倍の集中力を傾けて、案件の審議に臨みますが、一見さほどと思えない案件は聞き流す(したがって記憶にさえ残らない)傾向にあるのでしょう。
「たった2億円であるし大したことないだろう」
こう思って聞き流してしまった、まさに「その箇所」が試験に出て顔面蒼白になってしまった・・・
こんな「受験生」の心境なのでしょうか・・。
世間の常識と銀行の常識とのずれ。
世間ではたとえ2億円であっても、この問題は「最重要案件」と考えたのでした。