ウサギとカメの話
先日ご紹介した『気弱な人が成功する株式投資』の本ですが、本日発売となり書店に並びました。
ところでこの本には「あとがき」を設けていません。
その代わり最終章の最後の項目を「気弱な人たち」と題して以下のように書きました。
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私は高校時代にAFS(アメリカン・フィールド・サービス)という交換留学生のプログラムで、1年間アメリカの高校に留学した。
日本の高校生は大学受験というプレッシャーを抱えているが、アメリカの高校ではスポーツや音楽、演劇などのクラブ活動が盛ん。
自宅でホームパーティーを開く生徒たちもいたし、卒業生たちが高校にやってくるホームカミングの日には、大きなフットボールの試合が行われ、ダンスパーティーが開かれた。
フットボールやバスケの選手は女の子の憧れのまとで、パーティー好きや社交性の豊かな生徒たちが男女を問わず人気を集めていた。
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株式投資で成功している人たちはどんな性格の人たちだろうと思って調べてみると、こういったアメリカの高校での絵に描いたような「人気者像」は浮かんでこない。
少年ウォーレン・バフェットは父親の仕事の関係で故郷のオマハから首都ワシントンに引っ越すことになったが、彼は「新しい環境に変わっても、それになじめる性格ではなかった。彼は原因不明のアレルギーに悩むことや夜眠れないことを誰にも話さなかった。両親は彼の健康を非常に心配した」。
結局彼は故郷にいる祖父に手紙を書き、両親のもとを離れてオマハに戻り、祖父のもとで暮らすようになった。
フィリップ・フィッシャーは16歳でカリフォルニア大学(バークレイ校)に入学。
ひじょうに聡明だったが、年齢が若すぎて身体も小さく、スポーツも得意ではなかった。
気弱で、社交性がなく、クラスメートとも打ち解けなかった。
ジョージ・ソロスの片腕として、クァンタム・ファンドで成功を収め、1990年代にはイギリスの長者番付トップを幾度となくかざったニコラス・ロディティも実際に会ってみると孤独を好む人間だった。
ロンドン郊外の高級住宅地ハムステッドにある白亜の殿堂は、中に入ってみると、アンティークの家具と東洋の敷物と陶磁器で飾られた静かで広いオフィスだった。
そしてそこには年老いた秘書と彼の2人しかいなかった。
「パートナーがいても何の助けにもならない。結局、売るか買うかの判断は真夜中に一人でやらないといけないんだから」と彼は言っていた。
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大会社に入って出世の階段を駆け上がるには、日本でもアメリカでも社交性があって気配りができる人が有利だ。
組織を牽引するリーダーシップも求められる。
一方、投資家に求められるものとしてピーター・リンチがあげた幾つかの形容詞を拾ってみると、忍耐強さ、自主性、謙虚さといったものが出てくる。
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マーケットは誰に対しても公平だ。
由緒正しい家柄の出だろうと、複雑な家庭の出身だろうと関係ない。
エリート社員だろうとニートだろうと、等しく平等に勝負できる。
フィッシャーに言わせれば「自分自身に対して正直になれるかどうか」がポイントなのである。
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本書の「気弱な人」というタイトルは、第1章で紹介した是川銀蔵のウサギとカメの話を読んだ時に思いついた言葉だ。
私は少年時代にカメを飼ったことがあるが、カメは臆病で何かあるとすぐに頭を甲羅の中に引っ込めてしまう。
是川が書いたウサギとカメの話をもういちど記して本書の結びとしよう。
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「ウサギは自分を過信しすぎて勝負を急ぐあまり途中で没落していく。
一方、カメは遅いようでもちゃんとゴールに入っている。
つまりウサギのように顔の皮を突っ張らして目をまっ赤にして先のことばかり考えていては、ゴールは途中で跡形もなく消えていく。
カメになった心境で、じっくり時間をかけて買うことだ」
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書店でお手に取って頁をめくって頂ければ幸いです。
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