ストレス・テスト
2006年にヒットした映画『プラダを着た悪魔』にこんな一幕があります。
主人公のアンディ(アン・ハサウェイ)は、上司ミランダ(メリル・ストリープ)から「悪魔的」とも言える、横暴で、ときに理不尽な要求をいくつも受けます。
アンディはなんとかがんばって必死でこれらの要求に応えていくのですが、ある日、ちょっとした失敗をしてクビになりかけてしまいます。
このときに下された究極の命令が、「ハリー・ポッターの出版前の次作の原稿を入手してきて」。
なんで8年も前の映画のことを書くのかと思われた方もいるかもしれませんが、先日、ウォーレン・バフェットのインタビューを聞いていて、たまたま「出版前の原稿」のことを思い出しました。
1週間ほど前でしょうか。
CNBCのインタビューでバフェットは、5月13日発売予定のティム・ガイトナーの本を、「ゲラ刷り段階で読んでいるんだけれども、とても面白い」とコメントしていました (『こちら』)。
たしかにバフェットくらいになると、ガイトナーの最新著作をゲラ刷り段階で読むということも、あり得ることだと想像がつきます。
もしかすると出版社から推薦の一文を頼まれたのかもしれません。
いずれにせよ、ガイトナーのこの本、ニューヨークタイムスでも紹介される(『こちら』)など、発売前から注目を集めています。
現在52歳のガイトナーは、すでに34歳のときに財務副次官補に就任。リーマンショックが起きた時は、ニューヨーク連邦準備銀行総裁でした(47歳)。
その後(リーマンショックの4か月後)、オバマ政権の発足とともに財務長官に就任。
リーマンショックの渦中にいたガイトナーは何を見て、どう考え、いかにこの問題に対処したのか…
そもそもリーマンショックとはいったい何だったのか、ガイトナーの目を通して、われわれはこの問題に近づけるかもしれません。
この本の題名は「ストレス・テスト」。
金融界にいる人にとってはなじみのある言葉ですが、一般には分かりにくいかもしれません。
ときに耐久試験と訳されることもあるようですが、金融システムなどに対して通常以上の負荷をかけて正常に動作するか、つまり隠れた欠陥がないかを調べるリスク管理手法のひとつ。
ガイトナーは敢えてこの言葉に専門用語以上の意味を持たせて題名に使ったと言います。
いわく、“The financial crisis was a stress test of our nation, an extreme real-time challenge of a democracy’s ability to act when the world needed creative, decisive, politically unpalatable action”
「金融危機(注:海外ではリーマンショックのことを金融危機と言っています)は、我が国にとってのストレス・テストだった。
このテストは、民主主義が機能するかどうかに対する挑戦であり、極めて切迫したものだった。
世界はこのとき創造的で、果断な、そして政治的には受け入れがたい行動を必要としていた」
すでに日本のアマゾンでも予約注文可能(『こちら』)。
米国の公職に就いた人が退任後に本を出すことが多いのは、自分がどう考えて決断したのかを忌憚なく次の世代に残すことを「使命」と考えているからなのでしょう。
今年1月末に辞めたばかりのバーナンキ前FRB議長も本を書くと言っています(『こちら』)。
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