« そこ、キク! | トップページ | エコノミスト誌の記事 »

2014年6月14日 (土)

株主還元策

ホリエモンがライブドアの社長だったころ、株式分割を積極的に行いました。

当時は株式分割によって一時的に株券の流動性に不均衡が生じたことも手伝って、「分割→株価上昇」と一般に考えられていました(詳細は『株式分割バブル』を参照)。

しかし2006年1月4日以降はこうした不均衡もなくなり、マーケットは正常化していきました(『こちら』)。

さすがに今では株式分割によって株価が上昇すると信じる人は少なくなり、一般には、分割しても株主が持つ価値には変化がなく、株主は得も損もしないと考えられるようになっています。

例えば「1:3」の株式分割の場合、1株に対して2株が無償で、株主に対し配られることになり、株主の持株数は3倍に増えますが、(理論的には)株価は1/3 になります。

(もっとも分割によって1株当たりの株価が下がり、買いやすくなって購入者層が拡大するメリットはあります)。

株式分割は株主に対して中立的であるとして、最近はやりの株主還元策はどうでしょうか。

たとえば企業が行う自社株買いは株主にとってメリットをもたらすのかどうか…。

結論を先に言ってしまうと、自社株買いは、理論的には株価に対して中立的です。

簡単な例で説明します。

①会社Aは市場から資金を調達。年率15%のリターンを上げ、将来も同じように15%のリターンを上げるとのメッセージを発していました。

②ところが、今年度に入って、A社経営陣は当面の間15%を上げるような追加での投資案件は無いと判断。

具体的には会社資金100のうち80は15%のリターンを上げる投資案件に使うことが出来るが、20については投資してもリターンは15%未満になってしまうことから、これを使わずに市場に返すことにします。

③よって、A社経営陣は自社の現金20を使って株式市場から自社株を購入します(つまり、かつて市場から得た資金20をいったん市場に返すことにします)。

ひじょうに単純化しましたが、これが自社株買いのメカニズムです。

発行済み株式数は減ります(100→80)が、これら80の株式が上げるリターンは引き続き15%であって、株価には影響を及ぼしません。

以上が基本的な考え方です(Modigliani and Miller;1961。なおリチャード・ブリーリー他著、藤井眞理子他訳「コーポレートファイナンス」上巻(第6版)479-486頁に平易に解説されている)。

この基本的考え方を出発点としつつも、現在では、自社株買いについて、シグナル効果があるとする説など諸説もありますので、関心のある方は幾つかの論文をあたってみると良いでしょう(たとえば『こちら』『こちら』)。

さらに付け加えますと、借金をして自社株買いを行えば、企業の負債比率は上昇。

その結果、企業は最適資本構成(下記注)に近づき、企業価値が上昇することが現実の世界ではあります。

しかしこれはあくまで資本構成の変化によるものであり、自社株買いそのものの効果ではありません(Modigliani and Miller は最初から完全市場を想定)。

【注】企業の資本コスト(Cost of Capital)は株式コスト(Cost of Equity)と負債コスト(Cost of Debt)の加重平均(WACC; Weighted Average Cost of Capital)です。そして、負債コストの方が資本コストよりも安いことから、企業が負債比率を高めれば、企業価値は増加します(もっとも負債比率が高くなりすぎると倒産リスクが増して企業価値は減衰します。拙著『サバイバルとしての金融』173-176頁)。

      Photo

いずれにせよ、企業が自社株買いを積極化しているというのは、別の見方をすると、有望な投資案件がないということです。

株主としては、企業は自社株買いなどせずに有望な投資案件を発掘して積極的に投資を行って高いリターンを上げてほしいと望みたいところですが、現実には「(景気は)基調的には緩やかな回復を続けている」(by 日銀; 『こちら』 参照)といった段階。

そういった段階では取りあえず余剰資金は市場に返すという企業の行動もやむを得ないのかもしれません。

 

|

« そこ、キク! | トップページ | エコノミスト誌の記事 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« そこ、キク! | トップページ | エコノミスト誌の記事 »