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2014年7月15日 (火)

ダイナマイトで農業を (その2)

デュポンが1911年に農家向けに作成した75頁からなるパンフレットは、なんと現在でも米国アマゾンのサイトで購入することが出来ます(『こちら』;ただし15日23時現在売り切れ中)。

      Dupont_farm

それだけこのパンフレットは全米で多くの農家に配布されたということなのでしょう。(売り切れたと思っても、すぐまた新たな出品者が出てくる)。

もっともこのパンフレットはアマゾンで購入しなくとも、Project Gutenberg (日本の青空書店に近い)のサイトで読むことが出来ます(『こちら』)。

以下はパンフレットの表表紙と裏表紙の写真。

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中をちょっと覗いてみると・・・

「農地を耕すのにダイナマイトを使えば、ひじょうに簡単に土壌改良が出来る―障害物は除去され、害虫は駆逐され、土壌は耕しやすいものへと変化する」

デュポンのパンフレットはこう謳い上げていたのでした。

そしてもちろんこう付け加えることも忘れませんでした。

「ダイナマイトは安全です。

実際のところ火薬よりもずっと安全なのです」

しかしデュポンのこのキャンペーン・プロジェクトは失敗に終わります。

デュポン自身がスポンサーとなって行われた『実効性に関する2年間にわたる調査』(1911-13年)……。

この調査の結果、ダイナマイトを使った農地は、結局のところ土壌が改良されなかったばかりか、むしろ劣化してしまったことが判明してしまったのです。

しかも農家にとってダイナマイトは決して安くはありませんでした(1エーカー当たり12.20ドル)。

農家は昔ながらの農具を好み、「ダイナマイトを使ってもらおう」というデュポンのもくろみは外れてしまいました。

1914年。

第一次世界大戦が勃発すると、デュポンは米国政府へ協力する形で火薬などの軍需品の生産を増強。

と同時に化学の知識を使って合成染料の製造を試みるようになります。

戦争はいずれは終わるものですし、ダイナマイトの新規の用途開発が難しいのであれば、デュポンとしては自分自身で新たな事業分野を開発するしかなかったのです。

しかし合成染料の製造と一口に言っても簡単ではありませんでした。

当時の染料はドイツが独占していて、他国の企業は製造ノウハウを持ち合わせていなかったのです。

大戦勃発前は、米国はドイツから染料を全面的に輸入していたのですが、英国海軍による海上封鎖で染料の米国への輸入が完全にストップ。

デュポンは、なんとか自分たちの手で染料をつくろうと研究開発を始めました。

しかし簡単ではありませんでした。

実は、当時、ドイツのノウハウを一部模倣・複製することに成功していた工場が、英国マンチェスターにありました。

デュポンは、このマンチェスターの染料工場にリサーチ・チームを派遣し、研究を重ねていきます。

それでも染料の製法は簡単には修得することが出来ず、かかった研究開発費も当初予算をはるかに上回るものとなってしまいました。

しかしこのとき試行錯誤した研究の成果が、後のテトラエチル鉛(ガソリン添加剤でエンジンのノッキングを防ぐ)やフロン冷凍剤の開発へとつながっていきます。

さらに火薬をつくるのに使われていたニトロセルロース(硝酸繊維素)。

この取扱いから得られたノウハウを活かそうと、デュポンはピロキシリン・ラッカーを製造していた会社を買収。

セルロイド、人工皮革、パイラリン(ピロキシリン・プラスティックの一種で、くし、カフス、自動車のサイド・カーテンなどに使われる)の分野に進出していきます。

こうしてデュポンは「火薬・ダイナマイトの会社」から「化学会社」へと変身を遂げ、その後も数々の画期的な製品を発明し、商業化していきます。

    Nylons

たとえば:

1935年、ナイロンを発明(1939年、製造開始)

1938年、テフロン(ポリテトラフルオロエチレン)を発明(1946年、商品化)

1959年、ライクラを開発。ライクラは、ポリウレタン弾性繊維「スパンデックス」。伸縮性に富み、ブラジャーなどの下着、水着などスポーツウエア、スラックスなどのアウター、自動車シート、メディカル分野などで利用されています。まるでゴムのよう(Like Rubber)なことから「ライクラ」と命名されました。

こうしてデュポンは世界最大級の化学会社へと自らを変身させていきました。

そして昨年10月24日。

今度は「化学会社であることを止める」と宣言して、世界に衝撃を与えました。

続きは、「その3」として次回書きます。

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