ダイナマイトで農業を (その3)
安倍政権が「女性の活躍推進」と謳って1年3ヶ月。
上場企業3,432社のうち女性が社長を務めるのはどれくらいなのでしょうか。
東京商工リサーチの調べによると、上場企業で女性が社長を務めているのは28社(『こちら』)。
率にして0.8%。
当然のことながら、「女性の活躍推進」といった政策が目に見える成果を上げていくのには、やはり相当の時間がかかります。
米国の場合はどうでしょうか。
S&P500に採用されている500社で女性のCEOは22社。率にして約4%。
「なんだ、米国でも意外に少ないんだ」
そう思われた方も多いかもしれません。
その数少ない女性経営者の1人がデュポンのエレン・カルマン(Ellen Kullman)氏。
2009年12月にデュポンのCEOに就任しました。
実は2009年からデュポンは社の方向性について議論を進めてきており、役員会はその実行を当時53歳のカルマン氏に託したのでした。
そして昨年(2013年)10月24日。
デュポンは、「より高い成長と、より高価値な会社」(Higher Growth, Higher Value Company)となるべく、従来の化学事業からの撤退を決断します。
そして次の3つの事業分野に注力すると宣言したのでした(『こちら』)。
①農業と栄養関連事業(Agriculture & Nutrition)
②酵素やバイオ燃料などのバイオ関連事業(Bio-Based Industrials)
③先端材料、新素材(Advanced Materials)
化学事業(パフォーマンス・ケミカル)からの撤退とはまた思い切った決断ですが、いったいどういった考えによるものなのでしょうか。
ポイントは、今年5月28日にニューヨークのウォドルフ・アストリア・ホテルで行われた会議でのプレゼン資料(『こちら』)に分かりやすく書かれています。
上図のとおり、2008年~2013年にかけて、デュポンの主力事業分野(パフォーマンス・ケミカルを除く)の売上の年平均成長率(CAGR)は8%でした。
そしてデュポンとしては「今後も7%の成長は維持したい」と考えました。
ただしパフォーマンス・ケミカル部門(化学会社としての事業部門)をキープしたままでは、7%の成長は難しいと判断。
これを分離することを決断したというわけです。
デュポンによれば、パフォーマンス・ケミカルはプロセス・テクノノロジー主導の事業。
「サイエンスとテクノロジー」主導のデュポンの主力事業領域とは合わなくなっているとのことです(下図)。
なおパフォーマンス・ケミカル部門の分離については、今後18カ月(~2015年4月まで)の間に細部を詰めて完了させるとしていますが、この分離についてはタックス・フリー(投資家に余分な税金を発生させない)で行いたいとしています(『こちら』)。
具体的には、分離されるパフォーマンス・ケミカル部門の新会社は、デュポン本体と同じく上場会社となり、デュポンの株主は、本体の株とともに新会社の株も持つことになるといった「スピン・オフのスキーム」を検討しているとのこと(『こちら』もしくは『こちら』)。
もっとも最近の報道では、単純な「スピン・オフ」ではなくて、Reverse Morris Trust transaction (RMT)やM&Aによる売却も検討している(RMTについては『こちら』を参照)とのことで、最終的にどうなるかについては、まだよく分かっていません。
いずれにせよ、デュポンとしては、自分の身を切ること、間尺に合わなくなったものを捨てることによって、新しい会社へとトランスフォームする……。
『DuPont Advances Transformation』と題する昨年10月24日のプレスリリース(『こちら』)は、トランスフォメーションの重要性をこう声高に謳っています。
そしてこうしたデュポンの大胆な動きは、212年続いたデュポンの歴史を知れば、ある意味、当然の帰結であるようにも思えてきます。
変わることを恐れない。だからこそ、デュポンは212年も続いてきたのでした。
なお昨年行われたWSJ紙のJohn Bussey氏とデュポンのCEO、エレン・カルマン氏のインタビュー(『こちら』)は一見の価値があります。
冒頭、Bussey氏は、一世紀ほど前にデュポンが全米の農家に対して「ダイナマイトで農業を」と題するパンフレットを配ったことを取り上げて、CEOへのインタビューを始めたのでした。
(過去52年間のデュポン社株価推移)
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