老人漂流社会 “老後破産”の現実
現在日本の高齢者(65歳以上)人口は推計3300万人。
全人口の26%に達します(総務省統計局「人口推計」平成26年10月20日;『こちら』)。
このうち独り暮らしの人が約600万人。
その半数、およそ300万人が、「生活保護水準以下の年金収入」しかないと言います(『こちら』)。
NHKではこうした人たちの状況を「老後破産」と呼び、その実情を9月28日のNHKスペシャルにて放映しました(『こちら』)。
番組は大きな反響を呼び、その後数週間にわたって週刊誌上では「老後破産」の記事が賑わいました。
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番組で紹介された田代孝さん、83歳。
ビール会社に23年間正社員として勤め、40代半ばで独立、飲食店を経営してきました(店はその後上手くいかなくなり倒産)。
田代さんの年金は会社員時代の厚生年金もあるため合計10万円(国民年金だけだと満額でも6万4400円/月)。
東京・港区のアパートで暮らしています。
家賃6万円を払うと残りは4万円。
家賃の安いところに越そうにも「引っ越し代も捻出できない」と言います。
ついには電気代も払えなくなり、電気も止められてしまったとか・・・。
番組ではこうした高齢者の実情を何件か紹介した後、こう結んでいます。
「老後破産、けっして人ごとではない現実です」
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さて、こうした「老後破産者」を救済するには、社会保障をいまよりも更に充実させればいいのでしょうが、ことは簡単ではありません。
国債費を除くベースでは、実に42%が社会保障費。
社会保障費は、下図(クリックするとかなり大きくなります)のとおり、過去24年間で約19兆円増加(平均すれば年7900億円の増加)。
これから先、増加のペースを押さえていかないことには、国の財政(赤字)のつけを、将来世代に対して、いよいよもって「過大に回す」ことになってしまいます。
年金にしても、現在の年金制度は賦課方式。
つまり高齢者が現在受け取っている年金は、若い世代が払っている保険料でまかなわれています。
働く若い世代の人数が減り、高齢者が増えていっている現在の日本。
上図(クリックするとかなり大きくなります)のような人口ピラミッド推移を考えますと、社会保障を充実させるにも、①財源がない、②これ以上の負担を若い世代に強いるのは難しい、という状況に行きつきます。
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解決策の一つが、比較的豊かで恵まれている高齢者が受け取る年金に対する課税(「公的年金等控除」額)の見直しや医療費負担の見直し(平成26年4月1日以降に70歳に達する人は、70歳になった月の翌月以後の診療分から自己負担が2割となります)でしょう。
もちろんこれですべて解決するはずもなく、年金の支給開始年齢を諸外国並み(米および独;67歳へ段階的に引き上げ中、英;今後68歳へ)にするなど更なる施策も必要になるでしょう。
いずれにせよ他の先進国が経験したことのないような少子化・高齢化社会を迎える日本。
「若い人の活力を維持しつつ、老後の不安をなくすにはどうしたらいいか」
国民の英知を結集して、この問題に対処していくことが必要になります。
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以上は総論であり制度論ですが、もう少し具体的に、「では、我々はどうするか」を考えてみましょう。
最低限できることは、我々国民の一人ひとりが「自分の生活は自分で守る」との意識を徹底させることです。
これから先、ますます難しい時代になります。
インフレが進むかもしれませんし、為替も予想以上に動く可能性があります。
どんな状況になっても「自分の生活くらいは自分で守る」意識が重要。
当然のことながら、高齢者になると、働いて稼ぐことがだんだんと難しくなっていきます。
予想外の支出があるかもしれません。
そういった想定外のシナリオもある程度視野に入れておく必要があります。
実際のところ、「なんとかなる」と思って、早めに退職したものの、「そうでもないらしい」ことが分かって、あわてて再就職先を探すことにした、といった人の話もよく耳にします。
さらに退職金を運用に回したところ、かなり減らしてしまったという人もいます。
高齢者になって、働いて稼ぐことが難しくなると、頼りになるのは「年金」と、これまで蓄えてきた「預金」、なかんずく「退職金」です。
とくに退職金については、これが銀行預金に振り込まれた途端に、銀行などから「投資信託にしませんか」といったアプローチを受けます。
見慣れない大きな数字が通帳に載ると、誰でも気が大きなったり、戸惑ったりしてしまうもの。
「失敗して、減らしてしまった」ということのないように、ある程度の知識を身につけておくことが必要でしょう。
なお最近、興銀時代の後輩で学界に転出した塚崎教授が『退職金貧乏』という本を書きました。退職金を守る、失敗しないための「運用術」が語られています。
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