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2015年3月15日 (日)

2013年にキプロスで起きた預金封鎖

今からちょうど2年前の2013年3月。

キプロスで預金封鎖が起きて話題になりました。

もっともこれは、「ある朝起きたら急に預金が引き出せなくなった」といった状況とは、少し違いました。

じゅうぶんな予兆が何度も報じられていたからです。

国内の不動産価格が下落に転じたことで、キプロスの2大銀行は不良債権に傷ついていると報じられ、さらに2大銀行はギリシャ国債への投資で損失を被ったとの報道もなされていました。

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   (Lefkara Village にあるBank of Cyprus の支店)

キプロス最大の銀行であるBank of Cyprus と第2位のLaiki Bank(別名CPB:Cyprus Popular Bank)-この2行がキプロスの銀行セクターの8割を占めていました(第3位はHellenic Bank)。

そしてこの2行こそが巨額の不良債権に苦しみ、支援が必要とする状況に追い込まれていたのです。

と言っても、キプロス政府単独で2大銀行を救うことが困難であることは、明らかでした。

キプロスの銀行の総資産はキプロスのGDPの7倍にも達していたからです。

キプロスの2大銀行の問題は、キプロスという国家の問題にほかならない―。

国際金融の市場では、キプロス国債のCDS(Credit Default Swap)は1500bp(15%)を超えるようになっていました(『こちら』)。

こうして迎えた2013年3月15日(金曜日)。

銀行が閉店となった後で、キプロスの2大銀行への支援(およびこの関連でキプロスの銀行の預金残高への課税案)が報じられました。

ユーロ圏財務相会合で銀行預金への課税を行うことを条件として、100億ユーロのキプロス支援策が決定されたのです。

実は、この時までに預金を他国に移していた人たちがたくさんいました。

3月に入ってからの「たったの2週間」で、6,000にも及ぶ個人や法人がキプロス外に預金を移したとも報じられています(『こちら』)。

欧州中央銀行(ECB)のデータからは、キプロス民間部門による2月の国内預金残高が2.2%減の464億ユーロとなったことが判明しました(『こちら』)。

乗り遅れた人たちはどうしたでしょうか。

彼らは慌ててATMに駆けつけました。

そして預金を引き出そうとしましたが、ATMからはすぐに現金が枯渇してしまいました。

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      (Lefkara Village にあるBank of Cyprus の支店)

翌週の月曜日(3月18日)になっても銀行は開かず、閉じたまま。

結局、銀行が開いたのは、約2週間後の3月28日(木曜日)。

「銀行が開いた」と言っても、このときすでに多くの規制が講じられていました(『こちら』)。

  ・現金の引き出しは1人1日につき300ユーロ(38,000円)まで。

  ・海外でのクレジットカード決済は1ヶ月5,000ユーロ(64万円)まで。

  ・海外旅行の際の現金持ち出しは1,000ユーロ(13万円)まで。

こうした状況が約4か月も続き、その間、キプロスの2大銀行への支援について、キプロス政府とトロイカ(European Commission、 European Central Bank、 IMFの3者)との間の協議が進められました。

当初よりトロイカは100億ユーロによる緊急融資と引き換えに、キプロス自身も痛みを分かち合うことを要求。

キプロス政府は、預金保険によって保護されている10万ユーロ(1300万円)を超える預金については9.9%課税し、10万ユーロ(1300万円)以下については6.75%課税するとの案を検討しましたが、キプロス議会がこれを拒否。

そもそも保護されているはずの10万ユーロ(1300万円)以下の預金について、課税という名目で、これに手を付けるのはおかしいというのが、議会の言い分でした。

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      (Kourion の古代遺跡)

預金を自由に引き出せないという「預金封鎖」は約4か月続きましたが、2013年7月28日、最終的に下記のとおり決着しました。

① 第2位のLaiki Bankに預けられていた10万ユーロ(1300万円)以下の預金は第1位のBank of Cyprus の預金に預け替えられた(Laiki Bankはgood bank と bad bank に分けられ、good bank はBank of Cyprus に併合され、bad bank は閉鎖)。

② 第1位のBank of Cyprus の預けられていた10万ユーロ(1300万円)以下の預金は全額保護。Bank of Cyprus の預けられていた10万ユーロ(1300万円)を超える預金については、そのうちの47.5%が強制的にBank of Cyprus の株式に振り替えられた(すなわち預金者は10万ユーロを超える預金の47.5%を失い、代わりに銀行の株券を割り当てられた)。 

キプロスでは現在、預金を自由に引き出せるようになっていますが、海外送金や海外旅行の際に持ち出せる資金の額などについての規制は続いています(『こちら』)。

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