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2015年11月25日 (水)

ゴルドマンによる来年の見通し

この時期になると、来年はどうかといった話が多くなります。

ゴールドマン(下記)をはじめ各社とも来年は冴えないという見方が多い(Bloombergでも似たような話をやっていました)。

もっとも振り返ってみれば、今年の初め、マーク・ファーバー(Marc Faber)は、

「市場のボラティリティが増す(価格変動が大きくなる)」とか

「いくつかのサプライズ(驚くこと)がある」と

話していました(今年1月1日の私のブログ参照)。

でもこれから先、約1ヶ月、このままの状況で推移すれば、それほど特筆すべき年ではなかったと言えるかもしれません。

ダウは年初17,823ドルでスタート、現在17,812ドルです。

つまり著名なトレーダーやアナリストの予想も当たるような、当たらないような・・・。

もちろん、まだ2015年は終わっていませんし、残り何が起きるか分かりませんが・・。

Gs

なおゴールドマンのDavid Kostin, Chief U.S. equity strategist へのインタビュー(2016年の予想)は下記をクリックすることでご覧になれます(話を聞けば相応の説得力はありますが・・・)。

http://video.cnbc.com/gallery/?video=3000451237

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2015年11月24日 (火)

RIA (独立系アドバイザー)

前回のブログ記事の続きです。

ETFのことを語ると、どうしても出てきてしまうのが、RIAという単語。

日本語で「独立系アドバイザー」と訳されているようですが、米国では多くのRIAが活躍しています。

ちなみにRIAとは、Registered Investment Adviser の略。

どこに登録(register)するのかというと、SECもしくは州政府の証券局。

1940年のInvestment Advisers Act (投資アドバイザーに関する法律)によると、次のように記されています。

『投資アドバイザーは顧客である投資家の利益のためにアドバイスしなければならない。

顧客の利益にならないようなアドバイスを、意図的にせよ、意図せざるにせよ、提供してしまうような、「すべての潜在的な利益相反」を排除するか、少なくともそれを投資家の前に曝し出さなくてはならない。 

IAs to act and serve a client's best interests with the intent to eliminate, or at least to expose, all potential conflicts of interest which might incline an investment adviser—consciously or unconsciously—to render advice which was not in the best interest of the IA's clients.』

これに反して、日本の場合、証券会社や銀行、あるいはFP(フィナンシャル・プラナー)が顧客へのアドバイスと称して、投信を勧めるのは、誰のためでしょうか、そこにアドバイザーとしての利益相反の可能性がないのかどうか・・。

もちろん証券会社や銀行はセールス(販売)の一環として投資家に「こうした方がいいですよ」とアドバイスしているのであって、投資家に雇われたアドバイザーではありません。

では、運用を専門家に任せるというふれこみのラップ口座の場合はどうなのでしょうか。

意図的にせよ、意図せざるにせよ、「すべての潜在的な利益相反」を排除している(少なくとも曝し出している)と言い切れるのかどうか。

いずれにせよ米国では、「利益相反」に対して厳格で、fiduciary duty (受託者義務)の概念がしっかりしています。

それに対して日本では、それほどでもない(そもそも fiduciary duty という言葉は米国のビジネスシーンではよく出てきますが、日本語では、信託法の弁護士は別でしょうが、通常はあまり聞かないような気がします)。

いずれ日本でもRIAのような人たちが増えていくことを期待したいところです。

しかし日本のFPの中には証券会社のセミナーで講演して収入を得たりしている人もいることを考えると、これはちょっと時間がかかりそうです。

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ETF (上場投資信託)

本日、夜9時15分から日経CNBCテレビ「日経ヴェリタストーク」に出演します。

トッピクスはETFについて。

ETFはExchange Traded Fundsの略。

上場投資信託のことです。

例えば先週金曜日の東証での売買ランキングトップ3は:

【1位】 (NEXT FUNDS)日経平均レバレッジ上場投信  

【2位】 トヨタ自動車 

【3位】 三菱UFJフィナンシャル・グループ

の順(『こちら』)。

ETFがいまや売買代金のトップを占めています。

この1位の「(NEXT FUNDS)日経平均レバレッジ上場投信」とは、どういうETFなのでしょうか。

詳しくは『こちら』をご覧になって頂きたいのですが、要は、指数の変動率が、日経平均株価の前日比変動率(%)の2倍となるように計算された、日経平均レバレッジ・インデックスに連動を目指すETF(上場投資信託)のことです。

(長たらしい説明文になってしまって申し訳ありません)。

ここで言う「レバレッジ・インデックス」とは、日経平均が5%上がったら10%上がり、日経平均が5%下がったら10%下がるというふうに、日々の値動きが2倍になるインデックスのことです。

したがって、これに連動するETFも、日々の値動きが日経平均の2倍になるわけです。

上がるときも下がるときも2倍ですから、日経平均が上がれば、通常の日経平均連動型ETFの2倍の利益が得られますが、日経平均が下がると損失も2倍という、いわゆるハイリスク・ハイリターンの商品といえます。

ここでのポイントは2つ。

【1】日経平均の値動きが単純に2倍になるのは、前日と比較した場合だということ。

2日以上立つと、単純な2倍にはならなくなってきます。

詳しくは『こちら』もしくは『こちら』をご覧ください。

【2】株価指数に連動するといっても、連動するのは数値ではなく変動率です。

上昇率、下落率に連動するのであり、日経平均が1万9000円のときに(レバレッジタイプではない)通常タイプの日経平均連動ETFが1万9000円になるかといえば、そうではありません。

* * *

ETFの利点は信託報酬が安いこと。

たとえば証券コード1321「日経225連動型上場投資信託」(『こちら』)の信託報酬は税込年0.2376%。

これに比べ、投資信託は、例えば『こちら』の場合、税込年0.432%。

ものによってパッシブのインデックス型投信であっても、(ETFに比べて)税込年率0.5%くらいの差がつくこともあります。

つまりこの差は10年すれば、5%もの差になっていきます。

人によっては、ノーロード(販売手数料がゼロ)の投資信託を選べば、株式の売買と同じように売買で手数料を取られるETFより「安くつく」という人もいます。

しかしこれは正しくはありません。

ネット証券を使えばETF購入時の手数料は株式と同じで、通常0.1%前後。

米国では個人の平均的なファンドの投資期間は5年(日本では短期で売り買いする回転売買が問題視されています。『こちら』を参照)。

たとえノーロード型の投信であっても5年間の信託報酬の差は当初の購入時手数料の差をはるかに凌駕してしまいます。

* * *

上記がETFの利点ですが、逆にETF投資の留意点は、194銘柄(10月末現在、ETNを入れれば223銘柄)のなかには、売買代金が少なく流動性に乏しいものがあるということ。

『こちら』に掲げたような売買代金の大きいものは問題ないのですが、そうではなくて、流動性に乏しいものは、売りたい時に、その時についている値段で売れないことがあるので、注意が必要です。

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2015年11月22日 (日)

Money Never Sleeps 第8回

ほぼ月1回のペースで『日経ヴェリタス』に連載しているコラム「Money Never Sleeps」。

第8回(今週号の『日経ヴェリタス』)は、エクイティの力について書きました(以下、一部を抜粋)。

『クレディ・スイスが先月発表したグローバル・ウェルス・レポートによれば、世界には5,000万ドル(62億円)以上の個人資産を持つ人が123,838人いる。

このうち約半数の58,855人が米国にいるという。

アメリカンドリームとは煎じ詰めれば、スコットやビノッドのように巨万の富を得て、社会的にも発言力を増していくことなのかもしれない。

そしてその際に大きな力となるのが「エクイティ(株式)」である』

                  Veritas36

宜しかったらヴェリタス紙面でご覧になってみてください。

* * * * * * * * * * *

ところで、話はヴェリタスの記事とはそれてしまいますが、上掲のクレディ・スイスのグローバル・ウェルス・レポートは、Databookだけで158頁もある大作です(『こちら』でダウンロードできます)。

毎年このレポートは興味深い分析を掲載していて、たとえば昨年版では主要国における所得格差の記事(『こちら』の33頁ほか)が話題を呼びました。

これによると、ロシアでは所得上位10%の人たちが持つ資産が、国民全体の資産の84.8%にも及んでいるといいます。

ロシアを筆頭に、トルコ、香港、インドネシア、フィリピン、タイ、アメリカ、インドといった合計15ヶ国で、所得上位10%の人たちが国民全体の7割以上の資産を握っています。  

日本はどうかというと、所得上位10%の人が握っている資産は48.5%にとどまっているとのこと。

これはレポートの調査対象であった46ヶ国中、ベルギーに次いで2番目に低い水準。

今のところ、日本での経済格差(特に資産格差)は、世界基準よりは低く済んでいるということが分かります。  

とは言っても、これで安心するわけにはいきません。

日本の場合は1人当たりGDP額が世界27位(『こちら』)。

1位(ルクセンブルグ)~4位(スイス)と比較すると半分以下の水準。

しかも1992年以降、過去23年間、あまり増えておらず(1992年、392万円→2015年、394万円)、ほぼ一定の水準にあります。

* * * *

次回、第9回の「Money Never Sleeps」は新年1月3日発売の『日経ヴェリタス』に掲載の予定です。

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2015年11月20日 (金)

米国防総省も期待する「スマート下着」や「テクニカル繊維」とは?

『“近未来”を見据えた投資術』 というテーマで、 東洋経済新報社 『会社四季報ONLINE』 に記事を連載しています。

第10回の今日は『米国防総省も期待する「スマート下着」や「テクニカル繊維」』について。

以下その一部を抜粋します。

『フリース、ヒートテック、エアリズムとヒット商品を生み出すことで成長してきたファーストリテイリング。 

株価は、フリースが本格展開された1998年10月の337円(分割調整後)から、現在では約140倍の4万7000円にまで上昇してきている。 

当然次のヒット商品が気になるところだ。 

私の勝手な憶測だが、もしかすると次のヒット商品はアップルウォッチでも採用された「健康・フィットネス・ヘルスケア機能」を取り入れた、“次世代下着”になるかもしれない・・・』      

   Near_future

* * * *

『アップルウォッチは心拍センサーや加速度センサーなどを内蔵していて、これらによって歩数などの運動量、消費カロリーを測定する。 

アイフォーンとも連携しており、ランニング時の平均速度、距離、高度の変化、心拍数などのデータも提示してくれる。  

下着に同様なセンサーやチップを組み込むことができれば、同じような機能を提供できるだろう。 

すでにオムロン ヘルスケアは先月、独自のセンサー構造とアルゴリズムにより体の表面温度から体温を測定する、小型貼り付け体温測定技術を開発したと発表した。 

開発したセンサーに通信機能と電池を搭載することで、乳幼児や高齢者の体温管理、屋外作業者の熱中症予防に応用することができるという。 

オムロンによれば、このセンサーはチップサイズ8ミリ角。 

「下着にクリップのようなものでセンサーを身に着けることを検討している」という』

* * * *

『下着とは異なるが、富士通が開発した「次世代つえ」はGPSを内蔵、離れたパソコンから位置を追跡できる。 

これにより認知症の徘徊高齢者がどこに行ったかわからなくなるといった事態にも対応できる。   

もちろん、これらの機能を持った下着が実用化されるには、解決すべき問題が山ほどある。 

たとえば、洗濯などに耐えられるセンサーやチップが必要となるだろう。 

また、値段もアップルウォッチのように6万円といったものではなく、数千円で提供できることが望ましい』

* * * *

『オバマ大統領は今年3月、「繊維産業にフォーカスした製造業の技術革新コンペ」を行うと発表した。 

アメリカ国防総省がイニシアティブを取る形で行われるこのコンペは、民間の有望な研究開発プロジェクトに対して、政府が同額の資金を拠出することで支援する(たとえば、10億円の民間の研究開発プロジェクトがコンペに勝てば、政府も10億円をこのプロジェクトに供出する)。 

政府が拠出する総額は7500万ドル(92億円)。  

ホワイトハウスが発表したプレスリリースを読むと、米国政府が期待しているのは、「テクニカル繊維」と言われている領域。 

非常に軽くて燃えにくい繊維、あるいは電子センサーを内蔵する繊維の例が提示されていて、これらは(1)消防士の活動に役立つ、(2)スマートウォッチの機能を軽い繊維の中に取り込める、(3)抗菌性の圧縮性バンドに使うことで、戦場の前線で負傷した兵士がいつ、どういった手当てが必要かを察知できるという』

* * * *

記事では、以上のほか、バイオマス由来の人工合成クモ糸素材の開発に成功した日本のベンチャー企業、Spiber社の最近の動向などにも敷衍しています。

よろしかったら『こちら』をご覧になってみてください。     

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2015年11月17日 (火)

グレンコア・ショック(その3)

昨日の続きです。

今年の5月と6月、グレンコアは合計400億円の円建ての債券を発行(5月300億円、6月100億円)。

7年債でクーポンは1.075%。

額面で発行したのか、ディスカウントで発行したのか、グレンコアからの開示がなく詳細は分かりませんが、仮に額面かそれに近いところで発行されたのであれば、購入した機関投資家(おそらくは日本勢)はやや勉強不足だったかもしれません。

このときグレンコアのCDS(Credit Default Swap)は1~2%の間を行ったり来たりしていました(今週の日経ヴェリタス1面参照)。

CDSの値を考えれば、1.075%で7年のリスクを取るとは、合理的な判断を下したとはいえません。

グレンコアにしてみれば、(おそらくは日本の)機関投資家に助けられたということなのでしょうが・・・。

なおグレンコアを扱った月曜日の日経ヴェリタストークですが、『こちら』でご覧になれます。

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2015年11月16日 (月)

グレンコア・ショック(その2)

(1) グレンコア・ショックはリーマンショックのようなものになりうるか

グレンコアが万が一破綻するようなことになると、総有利子負債は6兆円を超え(505億ドル)、ネットベースでも3兆6000億円(296億ドル)。

さらにデリバティブ取引もあり、影響は大きい。

ただし 金融機関ではないのでリーマンショックほどの連鎖の反応は無いだろう。

2001年にエンロンが破綻した時も、負債総額は 310億ドルを超え、大騒ぎとなったが、その影響はリーマンショックとは比べものにならなかった(リーマンの方がはるかにインパクトが大きかった)。

(2) グレンコアの破綻の可能性は?

現状の資源価格で推移すれば、近いうちに破綻する可能性はほとんどないとみている。

理由の1つは有利子負債の内訳(下記の通り):

短期114億ドル

長期391億ドル

合計505億ドル

これに対して、現金と在庫(金・銀・銅の地金、原油など現金に簡単に変えることができるもの)が208億ドルある。

つまりネット・デット(正味の有利子負債)は、297億ドルであり、これは長期負債の範囲内(すべて長期でカバーされていると見ることができる)。

つまり1年以内に金繰り破綻をきたすような可能性はほとんどない。

(3)グレンコアの収益力

過去5年間にわたって毎年20億ドル(2500億円)以上の税引き後利益を上げてきている(エクストラータ買収で評価損を出した2013年を除く)。

(4)ストリーミング取引の評価

ストリーミング取引とは、将来の生産量の一部を現在の価格をベースに売却し、 代金を前払いで受け取る取引。

一般的には副産物をストリーミング取引の対象とする。

グレンコアはペルーのAntamina(アンタミナ)鉱山の33.75%の権益を有している。

Antamina_2

    (ペルー:Antamina鉱山)

残りの権益はBHP33.75%、Teck Resources22.5%、三菱商事10%。

アンタミナはペルー最大の銅鉱山で亜鉛も多く産出する。

グレンコアはアンタミナで副産物として産出される銀をストリーミング取引の対象としてシルバー・ウィートン社と取引することに合意したと公表。

正式調印は11月末の予定。

この結果、グレンコアは9億ドルの現金を手にする。

グレンコアは将来の銀価格上昇のアップサイド・ポテンシャルの80%を諦めることになるが、アンタミナから産出される銅、亜鉛はストリーミングの対象とはしていない。

この取引により、グレンコアの債務削減計画(来年末までにネット・デットを297億ドル→200億ドルにする)のうち、6割がすでに実現することとなった。

9月16日の増資 25億ドル

配当削減     24億ドル

ストリーミング   9億ドル

合計58億ドル

さらに農業関連資産の売却を進めるとしており、債務削減計画の実現性は高い(そもそもグレンコアがほんとうに困っているのであれば、たとえばアンタミナ鉱山の権益持ち分をすべて売却するといった手段も取り得たはず)。

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2015年11月15日 (日)

グレンコア・ショック

明日日経CNBCテレビ「日経ヴェリタストーク」に出演します。

トッピクスはグレンコア・ショックについて。

グレンコアは、売上高で食品大手のネッスルを上回り、スイス最大を誇る資源商社。

原油や銅、亜鉛などの価格下落を受け、業績が悪化していたところへ、9月28日南アの投資銀行インベステック(Investec)のアナリスト(Hunter Hillcoat)が、投資家向けにグレンコアに関するレポートを発表。

そのなかでこう述べました。

“If major commodity prices remain at current levels, our analysis implies that, in the absence of substantial restructuring, nearly all the equity value of both Glencore and Anglo American could evaporate.”『9月28日付The Guardian 紙』

Evaporate とは蒸発するという意味の単語。

これが切っ掛けとなってグレンコアの株価は1日で29%も下落しました(97.22ペンス→68.62ペンス)。

Glencore

            (グレンコア:6か月間の株価の動き)

この翌日にはグレンコア・ショックの影響を受けて、三菱商事などの株価も下げたので覚えている方も多いと思います。

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           (三菱商事:6か月間の株価の動き)

  (注)三菱商事は、翌日の9月29日には株価が1897円(引値)となり、年初来最安値を記録しています。

資金調達面での不安が囁かれたグレンコアですが、9月16日に 25億ドル(3000億円)の新株を発行、配当支払い停止(15年度末および16年中間配当)も宣言し、11月3日には将来生産量の銀を現時点で売却するというストリーミング取引で9億ドルを調達。

こうした一連の動きを受け株価は反転しました。

しかしながら、先週木曜日から株価は再び100ペンスを切り始めました。

グレンコア・ショックは終わったのでしょうか、それとも今後も続いていくのでしょうか。

番組ではこの辺を探っていくことになると思います。

明日21時15分からです。

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2015年11月11日 (水)

デービッド・アトキンソンの「新・観光立国論」

今年の6月。ほぼ同じような時期にまったく同じ名前の本が出版されました(おそらくは偶然でしょう)。

したがって間違えないよう注意が必要ですが、アトキンソンさんのこの本は面白い!

買う前に見たアマゾン掲載の読者書評がまず目を引きました。

「アトキンソン氏がゴールドマンの金融アナリストだった時に、私は銀行の企画部門でIRを担当していたのですが、銀行の幹部が日本の大手銀行は4つで良いと書いたアトキンソン氏の分析に激怒して、ゴールドマンの幹部に猛烈に抗議していたのを思い出しました」

本書の内容とはずれてしまいますが、実は私も似たような経験をしたことがあります。

(注) 私はゴールドマンにいたことはなく、別の投資銀行でした。また担当もFIG(金融法人)ではなくTMT(Telecommunications、Media、Technology)を中心とする事業会社だったのですが、にもかかわらず、日本の大手銀行に呼び出されて「お宅のアナリストはけしからん」と叱られました。

さて、本書が面白いのは、優秀なアナリストとしてのアトキンソンさんの分析がベースになっているからです。

アナリストの基本は、「何が大切で、逆に何が枝葉末節であるか」を見極める力。

たとえば「日立が優秀な冷蔵庫を開発したので、日立の株は買いだ」というアナリスト・レポートがあったとします。

これはアナリスト・レポートとして優秀と言えるでしょうか。

数字を見てみましょう。

日本の冷蔵庫の国内出荷台数は約450万台。

仮に日立が30%のシェアを取って、1台あたり平均10万円の営業利益を上げたとしても(どちらも、ちょっとあり得ない超甘めの想定ですが)、この分の営業利益は450億円。

日立全体の営業利益6,000億円の7.5%に過ぎません。

そもそも日立の場合、家電は産業用空調システムなどと共に「生活・エコシステム」というセグメントに属するのですが、このセグメントは会社全体の4.4%の営業利益を上げるに過ぎません。

つまり優秀な冷蔵庫を開発することは重要ですが、それが株価にどの程度のインパクトがあるのかを見極める目が重要になってくるのです。

そういったアナリストの目をもってして、アトキンソンさんは日本の常識が必ずしも世界の観光客の常識ではないことを指摘していきます。

たとえば日本人のマナーが良いのが観光資源になるとの主張について、アトキンソンさんはこう言います。

「わざわざ海外に行って、異国のマナーをチェックしようという物好きな人などほとんどいません。 

これも食事でたとえるなら、「漬け物」です。 

ひと口ふた口ならばみなおいしいと喜びます。 

たしかに主食はすすみます。 

ですが、あくまで漬け物は漬け物。 

主菜でも副菜でもないのです」

おなじような観点から「おもてなし」についてもアトキンソンさんは論考を深めていきます(本書の第4章(99~131頁)はまるまるこの点について語られています)。

この本でもうひとつ面白いのは、一泊400万~900万円の超富裕層向け高級ホテルが日本にはないが、必要であるとの主張。

たしかにジュネーブのプレジデント・ウィルソン・ホテル(PW)のロイヤル・ペントハウスのスイートは1泊65,000ドル~80,000ドル(8.0百万円~9.8百万円)。

東京リッツのザ・リッツカールトン・スイートが300㎡なの比し、PWは1,670㎡。

12の寝室と浴室を擁するスイートなので、このくらいの値段でも不思議ではありません(窓ガラスは防弾になっているとのことで、なんだかゴルゴ13に出てきそうです)。

アマンのリゾートの中には、プライベートのスイミング・プールを持つスイートもあったりして(こちらも1泊6.0百万円くらい)、世界にはこういったところに泊る超富裕層がいるのも事実です。

これら超富裕層を取りこぼしている日本の現状はもったいないと主張するアトキンソンさん。

一昨日初会合を迎えた政府の観光ビジョン構想会議(議長は安倍首相)のメンバーでもあります。

活躍を期待します。

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2015年11月 4日 (水)

秋のドラマ

なぞかけのような話ですが、池井戸潤の直木賞受賞作『下町ロケット』の一節(新刊本82頁)。

「虎ノ門にある事務所に神谷を訪ねた・・・

エレベーターで七階に上がり、殺風景なほど飾り気のない小綺麗な通路を歩いていくと、電話が一台置かれているだけの受付がある。

内線番号の一覧表に、登録している弁護士の名前が並んでいた」

と、ここまで読んだだけで、ここがどこの事務所か分かるかどうか。

その道のプロであれば、ひょっとすると、このビルが、多くの弁護士事務所が入居している「虎ノ門法曹ビル」であり、

この事務所とは、同ビル701の 内田・鮫島法律事務所 と分かるかもしれません。(まぁ、そんな人、ほとんどいないかもしれませんが・・・)。

       Photo_2

もっとも著者の池井戸さん自身が「神谷弁護士のモデルとなった弁護士」について発言しています(例えば『こちら』)ので、ネット上ではもうすでにかなり知れ渡っているようです。

中堅中小企業の経営者の方で、ドラマの中の神谷弁護士のような弁護士をお探しの方は、実際にモデルとなった 内田・鮫島法律事務所 に連絡を取ってみてはいかがでしょう。

なお同事務所は、現在では手狭になったとのことで、法曹ビルから虎ノ門ツインビルディングに移っています。

それにしても(と、ここから話はそれますが)、日曜夜のテレビドラマ「下町ロケット」。

視聴率は 16.1、17.8、18.6% と、

回を追うごとに着実に上昇。

NHKの朝ドラを除けば、現在平均視聴率トップに躍り出ています。

半沢直樹と同じ原作者、脚本家、演出者(放送局も放送時間帯も同じ)。

半沢の場合、最初の3回は、19.4、21.8、22.9%と推移し、

最後の第10話は42.2%を記録しましたが、さて・・。

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2015年11月 3日 (火)

一人一冊

週刊金融財政事情 は金融関係者に読まれている専門誌。

私も興銀時代には毎週職場で回覧されてきて読んでいました。

               201583129_mid

この雑誌の「一人一冊」という書評欄に拙著が評されていました。

評者の 松元さん は財務省主計局次長を経て、昨年まで内閣府事務次官として政府の中枢にいた方です。

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上の画像はクリックすれば大きくなりますが、下記(PDFファイル)をクリックすると、もっと大きな字で全文を読むことが出来ます。

「2015-8.pdf」をダウンロード

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