「持たざる国」からの脱却
このところ読んだ本で幾冊か印象に残ったものを若干の感想と共に紹介。
【1】「持たざる国」からの脱却
スタンフォード大学ビジネススクールで一緒だった松元崇さんの最新作。
松元さんの著作は「大恐慌を駆け抜けた男 高橋是清」(2009年)をはじめとしこれまで全て読んできています。
その中でおそらくこの本がいちばん今日的意味合いを持って読めます。とくに20~50代の現役世代の方々にお勧め。
高橋是清、山縣有朋など戦前の財政史を研究してきた松元さんの目からすると、現在の日本の状況は日露戦争後の日本に似ている・・。
当時の日本は日露戦争後に行うべきだった改革を実施できず、昭和に入って農村部が疲弊、本来「持たざる国」などではなかったにもかかわらず、自ら「持たざる国」へと落ち込んでいき、戦争への道を歩んでしまった・・。
これまでの松元さんの著作同様、この本もこういった問題意識のもとに書かれていますが、今回の著作ではとくに日本人の働き方がIT( Information Technology)の進んだ現況に合っていない、このことにメスを入れています。
新卒一括採用、終身雇用といった日本独特の雇用慣行。こうした慣行の下では企業はひとたび正社員を雇ってしまうとこれを減らすことは相当難しい。いきおい投資に対して臆病になってしまう・・。
「日本を車にたとえれば、それは雇用調整というブレーキが備わっていない車のようなものです。(略)高度成長の時代には(略)せいぜい景気後退時に企業内失業というエンジン・ブレーキを使うくらいで(略)高度成長を続けていった」(本書81-82頁)
ところが「今日、雇用調整というブレーキが利かない車では怖くてスピードを出せなくなっている」(本書82頁)
松元さんは、人生の途中で職を変わることが当たり前にならなければならない、そうでなければ人的資源がじゅうぶんに活用できないと説き、ドイツとスウェーデンの復活事例を紹介しています。
話は逸れてしまいますが、先日の新聞に香川俊介さん(財務省で松元さんの後輩にあたります)が主計官だったときに米軍へ直接面会に行き「思いやり予算」を切り込み削減することに結びつけた話が出ていました。
我々一人ひとりが自分たちの持ち場で目の前にある必要な「改革」に取り組まなければ、日本はほんとうに「持たざる国」へと落ち込んでしまう、これがこの本を読んだ私の感想です。
この本は版元から献本して頂きました。
「集中講義」という名の本はこれまで何冊か読んだことがあります(光文社新書が多かったと記憶しています)。しかし読んで印象に残ったものはほとんどありません。
「集中講義」本の多くは、大学の先生や大学で教える金融の実務家たちなどが日ごろの講義内容を本としてまとめたもの。読者目線で書かれておらず、大学の講義録のようなものが多かったのです。
ですから本書も献本されなければ、本屋で見かけても題名だけで敬遠、素通りしていたと思います。
しかしこの本には良い意味で期待を裏切られました。
著者が話した内容を原稿にまとめたというライターの腕と編集者の力量によるのでしょう。
読み物としてひじょうに読みやすかったと思います。
「日本とアメリカが戦争をする可能性はきわめて低かった・・。実際、よくいわれているように、アメリカは原爆を日本ではなくドイツに落とすために開発していた」(本書157-158頁)。
「もし日本が真珠湾を攻撃しなければ、アメリカは第二次欧州大戦のみに専念し、一方でアジア・太平洋ではイギリスやオランダと日本が植民地をめぐって戦争を繰り広げる状態が続いていたのではないかと思われます」(本書159頁)。
これは至極まっとうな指摘なのでしょうが、であればなぜ真珠湾攻撃などという無鉄砲なことをしてしまったのでしょうか・・。
この本は当時「海軍が戦争をせざるをえない状況に陥っていった」(185頁)と説き、ちまたで言われている「海軍善玉論」は、研究者レベルでの議論ではないと切って捨てています。
それでは陸軍出身の東條はなぜ開戦の決定をしたのか、本書はその辺のところも追及していきます。
【3】住友銀行秘史
著者の國重さんの名前は、板倉雄一郎さんの「社長失格」という本の中で住友銀行日本橋支店長の肩書と共に実名で出てきていたので知っていました(ちなみに「社長失格」も実名でいろんな人が登場し、読んで面白い本です)。
話は戻って、「住友銀行秘史」。
この本は新聞でも大々的に広告され、話題になっていたので買ってみました。
しかし読んで後味の悪い本。
出てくる登場人物が全員が全員、社内政治のみに奔走しており、「社会に対して価値を創造する」という志や気概がまったくない・・。
住友銀行幹部ともなれば高い年収を手にしていたのでしょうが、それは本来は価値を創造することの対価のはず。
そもそも平和相互を合併し、いたずらに店舗網を増やすことが、住友銀行の企業価値、株主価値の向上につながると考えていたのでしょうか。
若い読者にはこの本を読んで誤解をしないで頂きたいのですが、ここに出てくる話は銀行という規制業種において一時期に見られた特殊な世界での話。
競争原理が働く普通の業界で、この本にあるように経営陣が社内政治のみに奔走すれば、その会社はすぐに淘汰されてしまうのではないでしょうか。
もちろん最近の東芝などの事例をみれば明らかのように、多くの大企業でもこの本と似たような状況がある程度は散見されるのかもしれません。
しかしこんなことをしていては日本は世界からどんどん置いていかれてしまいます(というのが、本書を読んだ私の感想)。
人生は長いようで短い。はたして本書の登場人物たちは、こういった社内政治に明け暮れる人生を送ってきて、ほんとうに後悔しなかったのでしょうか。
【4】国家とハイエナ
黒木亮さんの最新作。
80年代初め、私は興銀の外国部でユーゴスラビアなどの東欧諸国の債務リスケジューリングの仕事をしていたことがあります。
そのため本作に出てくる国際金融の場面はそれなりに馴染みがあり興味深く読めましたが、新興国の債務問題に無縁の人には本書は取っ付きにくいかもしれません。
この本に書かれていることはこれまで日本のメディア(新聞、雑誌、出版)でほとんど報じられたことがありませんでした。
そういった意味で価値ある本であり、多くの人は知らない世界を本書を通じて垣間見ることが出来ると思います。
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