3000時間の投入
17~18年前、外資系投資銀行に勤めていた頃。
取引先A社の経理・財務担当役員のBさんから連絡が入りました。
『村上ファンドの村上さんが弊社の会長にアポを入れてきました。
会長から「まずは君が会え」と言われたので私が会いますが、ミーティングに同席して頂けますか』
当時、すでに村上ファンドは幾つかの案件でマスコミを賑わしており、上場企業には恐れられている存在でした。
ミーティング当日、Bさんと一緒に村上さんにお会いしました。
出された名刺には「株式会社M&Aコンサルティング」とあり、私には村上さんがコンサルティング会社の立場でA社に会いに来たのか、ファンドの立場なのか、分かりにくかった―そんな印象を持ったのを覚えています。
と、そんなことを思い出しながら、村上世彰氏の『生涯投資家』を読みました。
読了してすぐに、たまたま週刊文春を読んでいると、村上さんと阿川佐和子さんとのインタビュー記事が目に入りました(『生涯投資家』の版元は文藝春秋です)。
村上氏いわく、この本の執筆には村上氏が1000時間、ほかにデータなどを調べるアシスタント2人がそれぞれ1000時間、合計3000時間を投入したとのこと。
* * *
ところで、この本には日本でもコーポレートガバナンスがだいぶ進んできたと書かれていますが、私が思うに実態はまだまだ。
社外取締役など形だけは整った企業も多いのですが、経営者に指名されて選任されてくる人でどれほどのチェック機能が働くのか、疑問なしとしません。
実際のところ、大企業の部長クラスと話していますと、「業務を分かっていない人に説明するのに時間もかかるし、いったいどれほどの意味があるのか」といった声も聞こえてきます。
以下はシスコシステムズの社外取締役を務めたことのある孫さんの発言(出所は『こちら』)。
『(シスコでは)CEOが一生懸命に説明して、CFO(最高財務責任者)も説明して、担当役員がテーマごとに出てきて説明をして、そこで社外取締役から、「ああだここだ」とボコボコに叩かれる。
もうね、ジョン・チェンバーズ(シスコCEO)なんかこうやって汗ぬぐいながら、一生懸命に説明、力説する。
それで社外取締役の奴らは偉そうに、「うーん、納得いかん」とか言う(笑)。
平気で「やり直し」とか言って、3分の1ぐらいの案件は突き返していた。
日本と全然違うよ。
日本は社外取締役なんていうのは形式だけで、それはもう社長というか、社内から上がってきた起案で、まともに反対して潰そうなんていう話はほとんどないじゃない。
もうお家騒動ぐらいの感じで、しかも事前根回しでね。
根回し、根回し、もうそれでそんなのほとんどしゃんしゃんという感じじゃない。
例えばシスコでは丸一日やるからね。
前の日の夜に大体、役員と一緒のディナーがあって、この過去数カ月の状況をお互いにインフォーマルに食事しながら、雑談の中でいろいろやりとりをする。
翌日朝9時から大体5時まで丸一日かけて、ことごとくテーマごとにガンガン議論して、大体3分の1は流れる。
もう否決か納得いかんということでもう一回突き返す。
通るのは3分の2ぐらいだよ。
そのぐらい真剣勝負のガバナンスが働いているんだよ。
社外取締役がもう真剣勝負で参加しているから、お互いがプロの経営者として鍛えられているんだよね』
* * *
同じ社外取締役と言っても、米国と日本ではだいぶ違います。
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