『バカ売れ』、『未来年表』、『ブラックボックス』
最近読んだ本のなかから3冊ほど取り上げてみます。
【1】バカ売れ法則大全
この本は版元(出版社)から献本してもらったので読んでみたものです。しかし、もし書店で手に取った本だったとしても、迷わずレジに向かったと思います。
理由は、知らなかったことがたくさん書いてあったから。
私は日経新聞や経済系の雑誌も極力目を通すようにしているのですが、それでもこの本に出てくる54事例の多くについて、それがバカ売れしている事実さえ知りませんでした。
この本を著したのは行列研究所。
実は私はいわゆる「行列もの」(行列するほどの人気のお店や商品;行列ができてしまう現象)には関心を持ったことはありません。
と言うのも、一過性の行列は企業経営にとってはあまり意味はなく、投資家にとっても、それに惑わされて投資をすれば間違った結果に結びつきかねないからです。
経営とは一過性ではなく、連続性が要求されるものです。
しかしこの本の著者たちは、(名前に反して)多くの場合(すべてとは言いませんが)、一過性ではなく連続性にも配慮した上で、事例を選び、筆を進めているように感じました。
54事例の1つに、ニンテンドースイッチがあります。
これが発表されたとき(2016年10月20日)、アナリストの評価は分かれました。
そしてどちらかというとネガティブな評価の方が多かったのです。
任天堂の株価も、発表前(2016年10月19日)には26,080円だったものが、発表後には下落基調に転じ、5日後の24日には23,970円に。
しかし発表から5か月後、いざスイッチが発売されると、状況は一転します。
スイッチは発売後4ヶ月で470万台を売上げ、ネットではいまだにメーカー希望小売価格(税込32378円)よりも7,000円以上も高く転売されています。
株価も(スイッチだけの要因ではありませんが)42,980円(2017年10月27日)に。
なぜアナリストの多くは間違い、スイッチはヒット商品となったのでしょうか。
いろいろな要因があるのでしょうが、本書ではさらりとその1つの理由について触れています(なにせ1事例当たりせいぜい6頁の記述なので、あまりぐたぐたと書かれていません。かえってその方が気楽に読めて頭に入りやすいと思いました)。
【2】未来の年表
発売後4ヶ月で、すでに28万部(10月19日)のベストセラーになった本。
多くのレビューワーが指摘するように、これから先の年ごとに、人口減少の日本で何が起こるかを淡々と述べています。
「少子化」「高齢化」の問題は実はかなり前から分かっていました。
移民の要因を捨象して考えれば、現在20歳の人の数は20年前に生まれた人の数を上回ることは出来ませんし、今から30年後の30歳の人の数は、今年生まれた人の数を上回ることは出来ません。
1990年の段階ですでに、0~4歳の人口は3.3百万人、対して40~44歳の人口は5.3百万人だったのです(『こちら』)。
そして、これがそのまま35年後にスライドすれば、2025年には35~39歳の人口は3.3百万人「以下」(途中で死ぬ人がいるので「以下」となる)、75~79歳の人口は5.3百万人「以下」となることは、1990年当時から分かっていたのです。
つまり30年、40年も前から分かっていた問題に対して、残念ながら当時、抜本的な対策を講じなかった、それが残酷な未来年表となって現在わたしたちの前に露呈してしまった―こんな風に思えてしまいます(国が少子化対策を担当する国務大臣を置き始めたのは2003年)。
【3】ブラックボックス
著者の伊藤詩織さんはTBSワシントン支局長(当時)の山口敬之氏によって同氏が滞在していたシェラトン都ホテル東京に連れていかれます。
著者は腸が煮えくり返るような怒りを持つに至ったのではないかと思うのですが、意外にも「怒りや増悪の感情」はないと言います。
それはもしかすると、自分の心を守るための防衛本能かもしれません。
いずれにせよ本書では著者の感情を極力抑え、行間ににじませるだけに留めています。
それゆえに事実がきわだち、読者は事実の持つ重みを肌で感じ、圧倒されるようになります。
デートレイプドラッグについても書かれており、これはこうしたものを知らない人たちが被害に遭うことを未然に防ぐことにも繋がる―こうした意味からも本書は広く読まれるべきと思います。
読みやすい文章で、著者のジャーナリスト、文章家としての今後の活躍が期待される一冊になっています。
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