昨日発売になったPHPのビジネス誌、『The 21』(2018年1月号)。
特集記事は「40代でやっておくべき11のこと」。
私自身の40代をふり返ってみると、40歳の誕生日を興銀の営業第3部課長として迎えました。
そしてその8ヶ月後、村山富市さんが内閣総理大臣になり水俣病問題が政治決着に向けて大きく動き出します。
当時私は水俣病を引き起こしたチッソを担当していました。
水俣病問題の解決のためには患者の方々への補償金の支払いをどうするかがポイントとなります。
すでに当時チッソの債務超過額は1400億円を超しており、実質的に破綻していました。
チッソに対して金融支援を行い、患者に補償金が行くようにしなければなりません。
この支援策策定のために、霞が関(環境庁、大蔵省)や熊本県が中心となって動き、チッソのメイン銀行であった興銀も国や県との協議、他の民間金融機関の意向集約などに忙殺されました。
そして約1年後、「水俣病対策について」の閣議了解、閣議決定となって、この問題が解決に向けて一歩前進します。
この結果を見た後、ほどなくして私は興銀を辞めて、JPモルガンに移り、さらにモルガンからメリルリンチ、リーマン・ブラザーズへと転職し、49歳で独立。いまの会社「インフィニティ」を設立しました。
これが私の40代。
いま思い返すと、職場だけでも5つにもなり、かなりあわただしく動きました。
さて40代をどう過ごすかについて、この雑誌の中で識者の方たちがいろんなアドバイスをしています。
・「40代になったら定年後を視野にモードチェンジをしよう」(楠木新氏)
・「40代になったら社外の人脈を意識して増やす」(柴田励司氏)
しかしどうでしょうか。40代から定年後を視野に入れるというのは私にはチョット違和感があります。
自分自身のことをふり返ってみても、現実に水俣病で苦しんでいる患者の方たちがいる。しかも社会党出身の人が総理になりこの問題の解決の為になんとかしたいと頑張っている。一方で、民間金融機関として出来ることと出来ないことがある(補償金をチッソに貸したって返済原資はありません)。40代の前半はそんなことで悩み続け、また外資に移ってからは企業価値向上のためにどうすべきかを取引先企業に訴え続けました。
常に目の前にあることを解決しようと悩んでいただけで、定年後を視野に入れるとか、あるいは自分の為に人脈を増やすなどという時間もありませんでした。
つまり私の場合はどちらかというと、こうしたアドバイスとはまったく無縁の40代を過ごしていました。
失敗もたくさんしました。
詳しくは 『リーマン恐慌』 という本に書きました(同書29頁)が、メリルリンチへの転職が失敗の最たる例。
しかしそもそも転職自体がリスクを伴うもの。
リスクを取る以上、失敗はつきものです。
ということで、私の40代は失敗もたくさんあり、識者の方々のアドバイスとも無縁のものでした。
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ところでこの特集の第3部には私のインタビュー記事も掲載されています。
『40代の未来予想図―これから10年で起きること』
とのタイトル。
これからの10年。日本の未来は明るくなる・・と言いたいところですが、
興銀の審査部で長いこと未来予測をしていた(プロジェクトファイナンスの審査はときに20年後くらいまでキャッシュフローを引きます)立場からすると、必ずしもそうではありません。
未来を予測する第一歩は過去を知ることです。
未来が変化するためには、なにか明確な要因がなくてはなりません。それがない場合には、未来は過去の延長戦上にあると考えざるをえません。
過去10年で日本はさほど成長せず、産業構造の新陳代謝もあまり進みませんでした。
たとえばこの10年間で、日経平均株価は48%の上昇に留まったのに対し、米国のダウ平均株価は76%も上昇しました。
GDPも、日本は過去10年間でわずかプラス8%の成長でしたが、米国はプラス34%。
こういった数字を見れば、日本が米国に比べていかに低成長だったかわかります。
さらに大きな問題は、日本は産業構造にも変化が見られないこと。
たとえば、2007年と2017年の「企業の時価総額ランキング」を比較すると、
トップ10の顔ぶれはほぼ変わっていません。
トヨタ自動車、NTTなど、10社のうち6社は10年前と同じ名前が並びます。
加えて、トップのトヨタ自動車の時価総額は、どちらの年も22~23兆円で横ばい。
一方、米国の時価総額ランキングは、ここ10年間で激変。
2006年はエクソンモービルやGE、シティグループなど、製造業やエネルギー、金融が上位でしたが、
2016年はアップル、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブックと、上位5社すべてがインターネット企業で、うち2社は設立後20年もたっていません。
しかも、第1位のアップルはこの10年間で株価が8倍になり、現在の時価総額は約102兆円。
これはトヨタ自動車の4.4倍に相当します。
米国では経済を牽引する企業が次々と台頭し、世界全体に大きなインパクトを与えました。
いまや世界中の人々がiPhoneを持ち、グーグルで検索し、アマゾンで買い物をしています。
こうした変化の潮流は、今後10年間でガラリと変わることはありません。
ゲームチェンジャーとなるような要因がないからです。
米国では今後も新しい企業が出現し、経済を成長させ、世界で変化を創出するでしょう。
それに対し、日本は残念ながら経済はあまり成長せず、世界で変化を創出することも米国に比べれば見劣りしてしまう。
過去を踏まえると、残念ながらそう予測するしかありません。
とインタビューではややネガティブなことを正直に言いましたが、それがほぼそのまま記事になっています。
しかし変化の芽がないわけではありません。
10年前と違って今では日本の多くの若い優秀な人材が起業し、価値の創出にチャレンジしています。
Preferred Networks、メルカリなど世界的に注目される企業も増えてきました。
残念ながらシリコンバレーに比べれば、裾野の広さなどの点でまだまだ見劣りしますが、変化の萌芽は確実に存在するように思います。