ベーシックインカム
ベーシックインカムとは、すべての個人に、無条件で毎月一定のお金を直接配るという政策。
アイデア自体は古く、1516年に英国のトマス・モアが『ユートピア』で貧困対策として記したのが始まりだとされています(朝日新聞『Globe』17年12月)。
ヒラリー・クリントンも著書『What happened』で “you can provide every American with a modest basic income”(239頁)と記し、この政策を公約として検討していた旨を明らかにしています(『こちら』も参照)。
昨年6月5日、スイスはベーシックインカム導入の国民投票を実施。ただし反対約8割で否決(『こちら』)。
今年1月にはフィンランドがベーシックインカム導入の社会実験を始めています。
フィンランドの失業者は現在約18万人。
このうち2000人が抽出されて、月7万4000円のベーシックインカムを2年間もらいます。
月7万4000円とはどういう金額でしょう。
日本で20歳から60歳までの40年間の全期間、保険料を全額きちんと収めた人がもらえる老齢基礎年金が月6万4942円(『こちら』)。
これよりも1万円ほど多い金額です(注:日本のサラリーマンは老齢基礎年金のほかに老齢厚生年金ももらえます)。
フィンランドのベーシックインカム受給者の1人、ユハ・ヤルビネンさん(39)によると、
これまで失業手当の受給に際しては、職業紹介所で担当者に職探しの活動ぶりをチェックされ、「奴隷のようだ」と感じていたと言います(『こちら』)。
ベーシックインカムでもらえる金額は、失業手当より約1万3000円少なくなってしまったのですが、失業手当と違ってベーシックインカムには何の条件もありません。
職を探す必要もないし、仮に働いて収入を得ても減額されずにもらい続けることができます。
ユハ・ヤルビネンさんは、実験が続く2年間の間にこれまで内職でやってきた太鼓づくりをビジネスに育て、さらには映像制作を始めたいと言います(『こちら』)。
さて、仮に日本でベーシックインカムを導入すると、どういうことになるのでしょう。
7万4000円×12か月×1億2600万人(日本の人口)=112兆円
財源的にこれは無理だと諦める水準なのかどうか。
ひとことで言うと、かなり難しい水準です。
下図のように日本の社会保障給付費は118兆円。
(下図の出所は財務省『こちら』)
これだけ見ると、
現状の社会保障給付費118兆円≒ベーシックインカム導入コスト112兆円
と思われるかもしれません。
しかし社会保障給付費の原資は56%(66.3兆円)が保険料で、国庫負担や地方負担は約38%。
しかも118兆円の給付費のうち38兆円が医療費なので簡単には行きません。
「ベーシックインカムを導入するから医療費はそれでまかなえ」といっても、国民的合意は得られないからです。
それでもベーシックインカムに対する関心は世界的な高まりを見せていて、カナダのオンタリオ州でも今春、4000人が参加する社会実験の実施を発表(『こちら』)。
小規模のものを含めれば、すでに世界10余りの国や地域で実証実験が始まっていると言います(『こちら』)。
ポイントはベーシックインカムが失業者に働く気を起こさせるかどうか。
フィンランドの制度設計にかかわったマルクス・カネルヴァさん(38)によると
「月7万4000円は1カ月の生活費としては足りないが、安定した収入にはなる。そこでさらに収入を増やすために働いたり、起業などに挑戦したりするかを(実証実験で)確かめる」
とのこと(『こちら』)。
それにしてもあまりに複雑化している日本の社会保障制度。
年金ひとつをとってみても、
- 老齢基礎年金
- 老齢厚生年金
- 定額部分
- 報酬比例部分
- 加給年金
- 振替加算
- 中高齢寡婦加算
- 経過的寡婦加算・・・
いったい何人の人が制度の全貌をきちんと理解しているのでしょう。
【注】今回(今年9月)発覚した年金未払い事件は振替加算が未払いだったものです(『こちら』)が、支給する方(日本年金機構)も受給する方(国民)も制度をきちんと理解していないからこそ、こうした問題が出てくるのではないでしょうか。
話はそれてしまいましたが、ベーシックインカムの利点のひとつが、制度が単純明快で、これに係る事務コストもあまりかからないこと。
日本年金機構だけでも正規職員・准職員数 13,009人 有期雇用契約職員数 7,202人の合計2万人を抱えている(『こちら』)ことを考えると、ベーシックインカムの単純さは魅力的です。
フィンランドやカナダの実証実験の結果がどういったことになるのか。
気になるところです。
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