グーグルやフェイスブックで働く人たちの平均年収(中央値)と為替レートの話
ウォールストリートジャーナル紙にグーグルやフェイスブックで働く人たちの平均年収(中央値)が載っていました。
分かりやすくするため「平均年収(中央値)」と書きましたが、要は「中央値の年収」です。
給与総額を従業員数で割って得られる「平均値」は、年収が極端に高い人がいると、その人の数値に引っ張られて、平均値まで高く振れることになってしまいます。
その点、「中央値」であれば、上から順に並べた人たちの中で、真ん中の人の数字なので、普通の人の実態に近くなります。
なおウォールストリートジャーナル紙が報じた平均年収(中央値)の記事は、『こちら』ですが、購読者以外は全文が読めないかもしれません。
モーニングスター社のサイトに同じ記事が載っており、『こちら』で全文が読めます。
これによると、グーグルの従業員の中央値の年収は $197,000。
1ドル=109円で計算すると、2,100万円になります。
フェイスブックの従業員の中央値の年収は $240,000。円にして 2,600万円。
日本のIT企業である富士通はどうでしょう。
富士通の有価証券報告書(『こちら』)によると、従業員数3万3000人、平均年齢43歳、平均年収797万円。
ずいぶんと差がついてしまいましたが、為替レートを1ドル=80円で計算すると、現状のグーグル対富士通の2.6対1.0は、2.0対1.0くらいにまで改善します(ちなみに両者が等しくなる為替レートは1ドル=40円)。
* * * * *
さて、先週1週間で一気に円安ドル高が進みました。
月曜日には107円台だったものが、ついに109円台に。
今年に入ってからずっと円高の傾向にあった(下図)のですが、ここにきて市場はドル円の金利差に着目。
円安に振れるようになったというのが一般的な解釈です。
* * * * *
現在のマーケットの関心事は、
先週から特に顕著となった円安ドル高の傾向がどこまで続くのか
にあるのですが、こうした為替の話になると、必ず出てくるのが実質実効為替レートの議論。
3年ほど前にこれをテーマにブログ記事を書いたので、ご関心のある方はその記事(『こちら』)をご覧になってみてください。
日銀が現在発表している実質実効為替レートのチャートは下図です (『こちら』の頁に入り、為替のボタンをクリック)。
これを見ると現在のレートは実質ベースでは1975年頃のレートに等しいことが分かります。
ちなみにこのときの名目為替レートは1ドル=300円前後。
つまり現在の円ドル(109円)は実質ベースでは超円安になっているということで、本当はもっと円高になってもおかしくないという議論です。
であれば、先ほどのグーグル、フェイスブックのドルベース年収も、実は、富士通とそんなに大差はないと見ることも出来ます。
* * * * *
もっとも為替の世界はこうした学者が論じるような理論で説明したところで、現実はそれとは違った要因で動いてしまうもの。
ただし、
『世界の投資家はこうした実質実効為替レートの議論も分かった上で、今後どうなるかを考えている』
ことに留意しておく必要があります。
たとえば、ロイターに掲載された佐々木氏のコラム(『欧州投資家が見る「歴史的円安」相場の持続力=佐々木融氏』)では、歴史的円安との表現でこの辺について触れています。
当然のことながら、円の実質実効為替レートについては米国の財務省も注目しています。
4月13日に米財務省は『Macroeconomic and Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States』(日本で為替報告書とよばれているもの)を米議会に対して提出しました。
このなかで、米財務省は、『実質実効ベースでは、円は2017年初めから今年2月にかけて2.4%切り下げられた。この結果、円の実質実効為替レートは過去20年の平均を25%も下回っている(25%も円安になっている)』と記述。
(上記の18頁。原文は、On a real effective basis, however, the yen depreciated by 2.4 percent from the start of 2017 through February of this year. This brought the real effective exchange rate to nearly 25 percent below its 20-year average.)
つまり佐々木氏が面談した欧州投資家や米財務省の視点からすると、
『日本はずっとデフレが続いてきたのだから、本来、円はもっと強くてしかるべき。
そうしたことを勘案すると現状は円安に振れ過ぎている』
ということになります(すくなくとも実質ベースに着目するとそうなる)。
* * * * *
繰り返しますが、実質実効為替レートで実際の為替が決まるのであれば、ことは簡単です。
しかし現実は違います。
需給が複雑に絡み合って現在の相場を形成しているのです。
たとえば:
・米国の長期金利が3%をつけ、この結果生じた日米の金利差に着目する投資家。
・円キャリートレードを考える投資家。
・武田のシャイアー買収だけで7兆円ものドルが調達されるかもしれないと考える投資家(日本の経常黒字額が21兆円であることを考えると、7兆円というのはインパクトある数字です)。
・4月から新年度に入り、日本の機関投資家による外債投資が活発化していると考える投資家。
これらの投資家の存在はすべて円安ドル高方向に相場がふれることを物語っています。
はたしてこれから先、為替はどう動いていくのでしょうか。