ドルコスト平均法(1)
前回記事でご紹介したジェレミー・シーゲル教授の『株式投資』に出てくる投資法。
すなわち、「大恐慌(1929年~)のような株価低迷期であっても、毎月15ドルずつダウ平均株価指数を買う方法」。
この方法は、一般にはドルコスト平均法と言われています。
ドルコスト平均法とは、要は、(株や投資信託などを)一度に購入しないで、均等額ずつ定期的に継続して買う(投資する)方法です。
英語では dollar cost averaging あるいは単に dollar averaging と言います。
仮にあなたが65歳だったとして退職金2,000万円をもらい、これを運用に回すとします。
この場合、
(A)一気に2,000万円を株式投資に回す
のではなくて、
たとえば、
(B)半年に1回、200万円ずつ5年間かけて投資する。
こちらの(B)の方が、ドルコスト平均法です。
別に「半年に1回」と決まっているわけではなくて、
むしろ一般的に言って、多いのは「毎月」です。
しかしここでは実際に過去の株価に照らし合わせて検証していきますので、
たんに私の作業の簡易性の観点からのみの理由で、
「半年に1回、200万円ずつ5年間かけて投資する」方法をとります。
さて早速(A)、(B)双方について、検証していきましょう。
時計の針を1929年の大恐慌時に戻します。
投資対象はダウ平均株価指数。
為替の影響は捨象して考えます(以下、2,000万円とあるのは「2,000万円相当ドル」とご理解ください)。
もしもこのときを起点として、その後の相場展開が1929年以降とまったく同じ道をたどるとすれば、コース(A)の場合、あなたが一気に運用(株式投資)に回した2,000万円は、
3年後には、なんと(!)、216万円にまで減少します。
すなわち、
2,000万円×[41.2ドル(1932年7月8日の株価)÷381.2ドル(1929年9月3日の株価)]=216万円
です。
元本は9分の1になってしまうのです。
そして元の2,000万円に戻るのは、25年後、そう、あなたが90歳になったときです(1954年11月23日、382.7ドル)。
この投資方法では、65歳から90歳になるまで、あなたはずっと含み損を抱えたまま過ごすことになります。
「あのときに投資しなければ良かった」と後悔し続けるわけです。
(もしも80代で死ねば、かなり後悔したまま死ぬことになります)。
これに対して、退職金2,000万円を半年に1回、200万円ずつ5年間かけて(分割して)投資する方法を取った場合が「コースB」。
同じく大恐慌のときと同じ相場展開を辿ると仮定すると、投資元本は当初は減りますが、6年後、すなわち下図の通り1935年6月(あなたが70~71歳のときです)には、当初元本の2,000万円を回復します。
具体的なデータ、および計算結果は下図のとおりです。
コースBの場合、10年後(あなたが75歳のときです)には、資産は2,550万円にまで増えます。
そして、25年後(あなたが90歳のとき)には、なんと6,520万円にまでなっています。
つまり、大恐慌のような相場展開のときには25年後の資産は、コースA、B、両者で歴然とした差が出てきます。
コースA(一気に投資)では、2,000万円→2,000万円
コースB(分散して投資)では、2,000万円→6,520万円
冒頭のシーゲル教授の本が指摘するように、大恐慌のような相場展開の時には、
(B)ドルコスト平均法は、(A)一気に全額投資してしまう方法に比べて、
はるかに有利な結果をもたらすことが分かりました。
にもかかわらず、です。
日本で売れている、いわゆるマネー本の多くは、ドルコスト平均法に懐疑的です。
たとえば私の手元にある本のなかには、以下のような記述のものもあります。
『投資できるお金が相当額あれば、一気に投資してしまう方が、機会損失が小さいし、手数料も少なくてすむ。投資をする場合に、資金を分割して投資タイミングをずらすことに「時間分散の効果がある」などという人がいるが、これは合理的でないので注意しよう。運用の世界には、医学的に誤った民間療法のような「もっともらしいダメな話」が多々あるので注意しよう』
さて、ほんとうにドルコスト平均法は、医学的に誤った民間療法のような「もっともらしいダメな話」なのでしょうか。
次回はこの点について検討していきます。
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