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2018年6月 9日 (土)

アセット・アロケーションとリバランス (その3)

ジェレミー・シーゲル教授の言う『長期的には株式のほうが債券よりもずっとリターンが高く、リスクも低い』とはどういうことなのでしょう。

詳しくは教授が著した『株式投資』ご覧になって頂きたいのですが、下図をご覧ください。

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これは iPhoneで撮影したものを載せているので、やや見にくいかもしれません(クリックすると拡大します)。

教授の『株式投資』の原書『Stocks for the Long Run』(第5版)95頁の図です。

ちなみに原書の第5版は2013年に書かれたもので、リーマンショック後のデータを含みます。

一方、翻訳本の方は第4版の翻訳。リーマンショック前の2007年に書かれたものです。

さて上図は1802年以降2012年までの(なんと!)210年間の期間を対象に、保有期間(1年、2年、5年、10年、20年、30年)ごとに、株式、長期債、短期国債の実質リターン(インフレ調整後)の最高値と最低値を示したものです。

保有期間1年に限ってみると、いちばん良い年には株式は66.6%のリターンをもたらしました。

しかし悪い年には▲38.6%ものマイナスになりました。

ここで株式のリターンとは、

Dividends plus capital gains or losses on a broad-based capitalization-weighted index of U.S. stocks

のことです。つまり配当とキャピタルゲイン(もしくはロス)です。

このように、1年しか持たないのであれば、株式は高いリターンをもたらすこともあるけれども、逆にうんと損をしてしまうこともあります。

しかし20年間持つとすると、どうでしょう。

様相がガラリと変わってきます。

1802年から2012年までの210年間。

この210年間の『どの20年間を取っても』、株式投資はマイナスになることはありませんでした。

たとえ最悪の20年間を選んだとしても、少なくとも実質ベースで年率1.0%のリターンを確保し得たのです。

それに比べて長期債、短期国債の実質リターン(インフレ調整後)は選んだ時期によっては、期間20年間でマイナス3%あるいはそれを下回ることもあったのです。

『長期期間持てば株式のほうが債券よりもずっとリターンが高く、リスクも低い』というシーゲル教授の主張はこうした実証研究から導き出された結論だったのです。

実は似たような主張はバートン・マルキール教授の『ウォール街のランダム・ウォーカー』の中にも見られます。

私の持っているのは原書第8版の翻訳本なので少し古いのですが、下図はその396頁に出てくる図です。

Photo

対象となっている期間(1950〜2002年)やポートフォリオ(この場合S&P500)などの諸点でシーゲル教授のデータと異なるのですが、言っていることは同じです。

以下、引用です。

『典型的な株式ポートフォリオのリターンは、ある年には52%を超えたかと思えば、別の年には26%以上ものマイナスになっていたりする。

ある1年間をとってみて、確実に満足のいくリターンを稼げる保証はどこにもない』(395頁)

『しかし、もし25年間株式を持ち続けられるなら、話は全然違ってくる。

どの25年間をとるかによって多少の違いはあるかもしれないが、その差は大きくない。

上のグラフの対象期間中に25年間株式を持ち続けたとすると、年平均10.5%のリターンが得られた。

もし1950年以降、株式投資にとって最悪だった25年間をとったとしても、年平均リターンはそれより約3%低かっただけである』(396頁)

ここでひとつ注意点があります。

だったら株式で運用しようと即断してはいけません。

シーゲル教授もマルキール教授もアメリカの株式市場について言っているのであり、残念ながら日本は違います。

1989年12月29日に38,915円だった日経平均株価は、20年後に10,546円、25年後には17,450円だったのですから、いくら長期間持っても米国のようにプラスのリターンになることはなかったのです。

アメリカの210年間の全ての期間で言えたことが、なぜ日本には当てはまらないのでしょうか。

これはひとつには日本の資本主義がまだ発展途上にあるからです。

1980年代後半から90年初め、日本がバブルだった頃には、日本企業の経営者の多くは株主から預かったお金、つまり株主資本を「借金と違って返す必要のない無コスト資金」と勘違いしました。

結果、多額の転換社債、ワラント債が発行され、巨額増資も行われました。

資本は無コストどころか、借金の場合の金利よりも高いコスト(資本コスト)を負っているにもかかわらずこうした間違いをおかしてしまったのです。

「これではダメだ。企業は国際標準に近い利益を上げて株主に報いよう」とばかり、伊藤レポートが発表されたのが2014年8月。

これは今からほんの4年ほど前のことです。

伊藤邦雄一橋大学大学院商学研究科教授の名を冠したこのレポートでは「資本勘定(自己資本)に対して少なくとも8%の利益をあげるべき」との呼びかけが企業に対してなされました。

ちなみにこの比率は自己資本利益率(ROE)と呼ばれるものですが、アップルのROEは37%。

「少なくとも8%」と言っている日本の比ではありません。

コカ・コーラの過去13年間のROEは20%~42%のレベル。中央値は 27%です。

日本の資本主義がまだ発展途上にあることは他にもいろいろな点に現れているのですが、ここではもう一つだけ挙げてみましょう。

株主優待です。

アメリカの企業は若干の例外を除き株主優待を行いません。

たとえばダウ平均株価採用銘柄の30社で株主優待を行っているところは一つもありません。

これに対して日本では上場企業の36%もが株主優待を行っています。

企業は株主のものであるという意識が徹底しているアメリカの資本主義においては、株主優待とは、株主が自分の資産を取り崩して自分に支払う行為です。

つまり会社から財産が流出したら、それは株主の負担になるということです。  

ですから基本的には「行って来い」の関係で、株主優待を行おうと行うまいと、経済効果は等しい(タコが自分の足を食うような関係)のですが、

配当金(現金)と違って優待の内容から得られる便益は大部分の株主にとっては現金以下の価値しかありません。

また株主優待を行なうことの事務コスト(郵送料、労働コスト)も馬鹿にならず、その分だけ株主にとっての企業価値は毀損されます(つまり理論的には優待実施後には「優待の経済価値+アルファ」分だけ株価が下がります)。

このように企業にとっても投資家にとっても、株主優待はマイナスの意味しか持たないのですが、

日本では企業は株主のものであるという意識が乏しく、経営者も株主から与えられた資金を使って「利益をあげる」=「価値を創造する」という意識に乏しいことから、いびつな慣行がまかり通ってしまっています。

このほかにも日本の株式市場は「ちょっとおかしいぞ」というところがあるのですが、話がそれていってしまうので、ここではこの辺にしておきます。

いずれにせよ、こうしたことから日本の株式投資家は(アメリカの株式市場に投資してきた投資家に比べて)、きちんとしたリターンをあげることができなかったといえます。

このため『長期期間持てば株式のほうが債券よりもずっとリターンが高く、リスクも低い』の法則は(残念ながら)日本には当てはまらない法則となってしまっています。

さて以上を踏まえて、もういちど 『金融資産は株と債券で持て。その比率は「100(もしくは110、120)マイナス年齢」で株式を持て』 といったアセット・アロケーションのルールを考えてみることにしましょう(長くなったので次回にします)。

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