アセット・アロケーションとリバランス (その5)
セネガル戦、手に汗握る展開で、見ごたえがありました。
先週はイタリアに行っていたのですが、見ず知らずの人から
「日本は凄いね。コロンビアを破るとは!」
と声をかけられたりしました。
そう言えば、イタリアは今回60年ぶりの予選敗退。
ロシアに行けませんでした。
にもかかわらず、テレビのチャンネルをひねれば、すぐ出てくるのがワールドカップの中継。
「さすがサッカー大国イタリア」といった感じでした。
* * *
さて前回記事の続きです。
株式と債券との間でアセット・アロケーションを図る(あくまでも米国での話です。本シリーズの「その2」をご覧ください)・・・・。
このことの重要性について、これまで書いてきました。
これは主として株が下がれば債券は上がることが多く、両方持つことによって、株下落時の傷を小さくすることが出来るからです。
このように一方の金融資産が下落すれば、他方が上がるとき、両者は「負の相関」にあると言っています。
さて、株式と債券とを併せ持つことで、下落時の傷を小さく出来ることは分かりました(その代わり上昇時には上昇の程度が弱まる)。
それでは株式の中でのアセット・アロケーション(先進国株と新興国株など)を図るべきなのかどうか・・。
つまり「米国株と他の先進国株」、あるいは「米国株と新興国株」といった具合に併せ持つべきなのかどうか。
この問題にアプローチする前に、先ほどの「相関」の意味をもう少し深掘りする必要が出てきます。
両者(この場合は2つの金融資産)がどの程度の相関の関係にあるかを現すものとして、「相関係数」という概念があります。
相関係数(correlation coefficient)とは、ビジネススクールでファイナンスや投資の授業を取ると、最初に出てくる概念です。
具体的には、「共分散(covariance)の値を、各変数の標準偏差の積で割ったもの」が「相関係数」なのですが、こう説明されても「チンプンカンプン」かもしれません。
とくに統計学を学んだことがない人には分かりにくい説明となってしまっています。
実は、ウィキペディアの共分散の説明箇所(『こちら』)に、相関係数についても説明があり、例をあげて比較的分かりやすく説明されていますので、関心のある方はそちらをご覧になってください。
面倒くさい方は、結論だけを頭に入れておきましょう。
- 相関係数は必ず「-1.0 から +1.0」の間(-1.0と+1.0を含む)に収まる
- 相関係数が「-1.0」のときは「完全な負の相関」にある。こうした関係にある2つの金融商品を持てば、ポートフォリオの標準偏差(リスク)はゼロになる(下記の表における(b)。
- 相関係数が「+1.0」のときは「完全な正の相関」にある。こうした関係にある2つの金融商品を持つ場合、ポートフォリオの標準偏差(リスク)は(個別の金融資産に比して)いっさい減少しない(下記の表における(a)。
- 相関係数がゼロの場合は無相関(2つの金融商品は独立していて関係がない)
上記の表も面倒くさい方は下図をご覧ください。
いちばん左が相関係数「+1.0」の「完全な正の相関」。
真ん中が相関係数「-1.0」の「完全な負の相関」。
いちばん右が相関係数がゼロの無相関です。
株式と債券とは通常は「負の相関」の関係にあることが多いので、両者を併せ持つことで、リスク(価格の振れ幅の度合、標準偏差で示される)を減らすことが出来ます。
上図は1970年から2012年までの米国株価(S&P500)と他の金融資産との毎月の相関係数をグラフ化したものです。
ジェレミー・シーゲル教授の『株式投資』の原書『Stocks for the Long Run』(第5版)49頁の図です。
これを見ると分かるように、2001年以降は株と債券(10年国債)との間には負の相関が見られます(2012年の相関係数は-0.29)。
しかしS&P500とEAFE(米国・カナダを除く先進21ヶ国の株価指数。EAFEはEurope, Australia, Far Eastの略)の間は、+0.91の正の相関。
S&P500とEm Mkt(新興国株価指数)の間は、+0.85の正の相関。
つまり米国株と他の先進国株、あるいは新興国株を併せ持つことでは、債券を併せ持つときに比して、リスクの低減はあまり見込めません。
一方でリターンはどうかというと、
過去10年間の実績では
米国株 年率平均リターン 8.43%(『こちら』)
EAFE 年率平均リターン 2.10%(『こちら』)
Em Mkt 年率平均リターン 1.62%(『こちら』)
過去5年間の実績では
米国株 年率平均リターン 12.26%(『こちら』)
EAFE 年率平均リターン 5.93%(『こちら』)
Em Mkt 年率平均リターン 4.52%(『こちら』)
つまり米国株と他の先進国株、あるいは新興国株を併せ持つことで、リターンはかなり薄まってしまうのですが、これに対してリスクの低減はあまり見込めないのです。
よって【A】 「米国株以外に投資対象を広げることには否定的な見方」 も多いのが現状です。
ただしこれはあくまでも過去の実績に基づく議論。
これからは中国、インドが台頭してくるとの議論もあり(たとえば『こちら』)、米国株だけに固執するのではなく
【B】 「世界の株式市場といった考え方を取り入れろ」との意見も同じように多く見られます。
【A】か【B】 、どちらを取るか、結局はあなた次第といったことなのかもしれません。
ちなみにシーゲル教授(上記の本の206頁)も、マルキール教授(『ウォール街のランダム・ウォーカー』原書第8版の翻訳本409頁)も、後者【B】の見解(世界の株式市場に投資せよ)です。
ただ両教授が実際に実務をどこまで分かってこう書いているのか、疑問がないわけではありません。
たとえば「新興国株へ分散投資するには『MSCI Em Mkt (『こちら』)』に投資せよ」ということなのでしょうが、中国など新興国は資本規制を設けることが少なくなくありません。
こうしたこともあって、MSCI社は2014年から中国本土に上場されている中国株(人民元建てのA株)の組み入れを検討してきましたが、3年連続でこれを見送ってきました。
ようやく2018年6月から組み入れを開始、しかし今もその比率を1%未満に抑えて慎重に対応しています。
現状『MSCI Em Mkt (『こちら』)』への組み入れ比率が最も高い株式は、テンセント(5.5%)、次はアリババ(4.3%)ですが、テンセントは香港、アリババはニューヨーク上場です。
このように上場する市場が必ずしも国対応でないケースが散見されるようになってきたのと同時に、ますますボーダレス化する企業活動(たとえばP&G社の売上げの55%は米国、カナダ以外の地域)の現状を鑑みると、「米国株と他の先進国株、新興国株を時価総額比で分散させる」という教科書的原則だけでいいのかどうか・・・。
先行する現実に理論の方が追いつかなくなっているような気もします(もっとも私が勉強不足で最新の理論なり論文を目にしていないだけなのかもしれませんが・・・)。
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