トゥキディデスの罠(The Thucydides Trap)
「トゥキディデスの罠」とは、アメリカ合衆国の政治学者グレアム・アリソンが作った造語。
トゥキディデスは古代アテナイの歴史家。
アリソンは、約2400年前の覇権国家スパルタと新興のアテネとの間で生じた「対立・戦争」を例に、
『新興の国家(たとえば中国)と従来の覇権国家(たとえば米国)とがぶつかり合う構図』
を論じました。
最近読んだ『ロシアと中国 反米の戦略』(廣瀬陽子著;ちくま新書)は、こうした国際情勢を主としてロシアと中国の動きに焦点をあてながら描き出したものです。
1956年のフルシチョフによる「スターリン批判」に端を発した中ソ対立は、1965年には武力衝突にまで発展。
しかしペレストロイカを経て、1991年にソ連が解体。
1996年にはエリツィン大統領と江沢民が、
戦略的パートナーシップを掲げて共同宣言に調印します。
この共同宣言に基づき、1996年に結成された「上海ファイブ」(中露に加えてカザフスタン、キルギス、タジキスタン)は、2001年にはウズベキスタンを加え、「上海協力機構(SCO)」へと発展していきます。
そして、2017年にはインドとパキスタンがSCOに同時加盟します。
なおSCOは、現在では、面積と人口の双方の尺度において、世界最大の多国間協力組織、地域協力組織となっています。
このように中国とロシアは、一見、両者が協力して国際社会における勢力拡大を図っているようにも見受けられます。
それでは、かつては大きな問題であった「中露の国境問題」は、いったいどうなってしまったのでしょう。
一時は軍事衝突も起きたほどだった「中露の国境問題」ですが、
実は2004年に「中露国境協定」が妥結され、解決を見ています。
中国とロシアの両国は「米国による一極的支配に対抗し、多極的世界」を構築するとの共通目的のもと、2009年には初の「BRICs」を開催。
2011年には南アフリカが「BRICs北京サミット」に招待され、BRICsは、「BRICSに拡大」していきます。
ところで、ロシアのプーチンが強力に推し進めているのは「ユーラシア連合」構想。
この前提をなすのが、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンからなる「ユーラシア経済共同体(EAEC)」です。
なおこれに並行してロシア、ベラルーシ、カザフスタンとの間で「関税同盟」が結成されています(2010年)。
2000年から15年まで機能した「ユーラシア経済共同体(EAEC)」は、2015年には「ユーラシア経済同盟」へと発展。
当初はロシア、ベラルーシ、カザフスタンでしたが、のちにアルメニア、キルギスもこれに参加しました。
一方、中国の習近平が推し進めるのは「一帯一路」の勢力圏構想。
これに加えて「AIIB(アジアインフラ投資銀行)」を2015年に発足させています。
また2014年にはIMFに反発する形で「新開発銀行(NDB)」をBRICSの5ヵ国で設立。
ところで、ロシアは「新開発銀行(NDB)」の設立メンバーであるのみならず、「AIIB(アジアインフラ投資銀行)」にも中国、インドに次ぐ第3位の出資比率で参画しています。
このように中国とロシアは、国際社会において、自らの勢力圏拡大を目指して、着々と駒を進めてきていますが、両者の思惑は一致しておらず、舞台裏では、熾烈な主導権争いが闘わされています。
廣瀬陽子氏の『ロシアと中国 反米の戦略』では、その辺を見事に描き出しています。
はたして「トゥキディデスの罠」は必然なのか。
トランプが気にするのは今年秋の中間選挙であり、さらには精々のところ、2年後の2020年の大統領選挙までです。
これに対して、習近平は9年後、2027年までを見据えており、
一方、今年再選されたプーチンの任期は、6年後の2024年までです。
このホライズンの違いが気になるところです。
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