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2020年1月 2日 (木)

『きっと新しいことが始まる』

今から24年前。

1996年。

パリ在住のフランス人、カレンさんは、フランスのテレビ局に勤めていました。

当時26歳でしたが、すでに部下が8人もいる技術部長でした。

「カレン、ちょっといいかい?」

あるとき上司に呼び出されます。

上司の後をついて会社の休憩室に行ってみると、こう言われました。

 「カレン、バカンス(長期休暇)を取らないか? 有給休暇がたまってるだろ?」

そう言えば、カレンさんは入社以来、仕事に夢中でまとまった休みを取っていませんでした。

「局の立ち上げ以来、君が頑張ってくれたおかげで今はスタッフが育っている。

数週間、君が抜けても大丈夫だよ」

「分かりました」

「どこか海外、そうだな、ニューヨークにでも行って、羽を伸ばしてきたら、どうだ?」

「アメリカは嫌です」

そんなカレンさんが行き先として選んだのは日本。

5週間のバカンスでした。

しかしいきなり行ったわけではありません。

バカンスの取得は3か月後ということでアレンジし、その間、仕事の合間を縫って

パリにいる日本人と知り合いになったり、

彼らから日本語を教わったりして、

初めての日本渡航に備えました。

出来るだけ日本に親しむことにしたのです。

しかし、

そんな彼女でも、日本に向かう飛行機の中で、もう胸はドキドキ。

飛行機の中は日本人のキャビンアテンダント。

そして乗客のほとんど全員が日本人!

もうここはすでに日本だ!

覚えたての日本語で日本人キャビンアテンダントの質問に答えても

いっこうに通じず、

フランス語で返されてしまう始末。

10時間以上のフライトが終わりに近づきつつあるとき、

機内アナウンスが入ります。

「当機はまもなく成田国際空港に到着します」

これを聞いて、カレンさんは思います。

「いったい何と言っているんだろう?

日本ってどんな国なんだろう」

この後、カレンさんの身に起きたいろいろな出来事。

まだその時のカレンさんには、これから先、いったいどんなことが起こるのか、

まったく想像がつきませんでした。

全然!

でもカレンさんは、飛行機の中で、

日本に行くことが人生の転機になると、

なぜかはっきりと感じていました。

「きっと新しいことが始まる」

そう強く感じていたと言います。

* * *

そんなカレン(Karyn Nishi-Poupee)さんは、現在フランス最大の報道機関、AFP通信の東京特派員。

バカンスで初めて日本に行った後、日本とフランスの間を行き来するようになり、

勤めていたテレビ局もやがて辞めて、

フリーのジャーナリストとして活躍。

2004年にAFP通信東京特派員に就任。

2008年「LES JAPONAIS 日本人」を出版。

2009年に「渋沢・クローデル賞」を受賞。

翌2010年には「Histoire du Manga 日本漫画の歴史」出版。

同年、仏国家「功労勲章」を受章。

現在は日本人の夫(漫画家のじゃんぽーる西さん)と2人の息子さんと一緒に日本に住み、

日本の技術、経済、社会を海外に伝え続けています。

* * *

『私はカレン、日本に恋したフランス人』は、カレンさんの夫、じゃんぽーる西さんが著した漫画本。

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26歳のカレンさんがバカンスで日本に行こうと思いたち、それから現在までの足跡が漫画で綴られています。

* * *

ところで、話は若干それますが、昨年引退したイチローが、先月22日、小学生の子どもたちに次のような言葉を送っています(全文は『こちら』)。

「僕が27、28の歳にアメリカに渡って、(略)外に出て初めてわかること、

調べれば知識としては、わかることであっても、

行ってみてはじめて分かることってたくさんあって(略)、

やっぱり外に出て、傷つくことだってあるし、楽しいことももちろんいっぱいある、

勉強することはいっぱいありました。

それを知識として持っておくのではなくて、体験して感じてほしい。(略)

今まであった当たり前のものというのは、決して当たり前ではないというふうに気づく。

価値観が変わるような出来事を、みんなに体験してほしいというふうに思います」

* * *

 深くは考えずに、

しかし準備は出来るだけして、

思い切って外に出てみる。

そうすることで、

きっと新しいことが始まる。

今から24年前。

26歳のカレンさんはそう感じながら異国の地に向かって飛び出したのでした。

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