都心の高層ビル
2011年から19年にかけて放映されたアメリカのテレビドラマ『SUITS/スーツ』。
ニューヨークの一流法律事務所が舞台です。
事務所のシニア・パートナーたちの力関係を示すものとして、事務所内の部屋の位置がよく話題になります。
いちばん権力を持つパートナーがいちばん眺望の良い部屋を持つ・・。
若手の弁護士たちはいつかあの部屋で働きたいと頑張る・・。
今後そんな光景は一昔前のものと言われるようになるかもしれません。
ブルームバーグが報じたところによると、
『英銀バークレイズのジェス・ステーリー最高経営責任者(CEO)は4月29日、
社会的距離の維持で一度に2人しかエレベーターに乗れなくなるなら、
数千人が働くような本店は「過去の産物」になるかもしれないと述べた。
こうした懸念は競合他行も示している』(『こちら』、なお原文は『こちら』)。
ちなみに米国では高層ビルのエレベーターが感染の観点から危ないと考えられているようです。
昨日付のウォールストリートジャーナルの『こちら』の記事によると、
『エレベーターは問題となり得る。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校で疫学を教えるジョージ・ラザフォード(George Rutherford)教授によると、エレベーター内で人と人との距離をじゅうぶんに取ることは殆ど不可能。
全員がマスクをつけるべきだし、エレベーターの壁を向いて立たないと誰か他人の息を吸ってしまう。
エレベーター内のボタンも危ない』。
どうやら心配しているのは投資銀行のCEOたちだけではなさそうです。
* * *
そもそも都心の高層ビルで一カ所に人を集めて働くのは、それが効率的だったからです。
しかしそれが人間的だったかというと必ずしもそうではありません。
20年ほど前、米国の投資銀行ではテクノロジー部門(アップルなどテクノロジー関連の会社への営業担当)の本部をニューヨーク(会社によってはサンフランシスコ)からシリコンバレーに移しました。
当時、ある投資銀行でテクノロジー部門ヘッドのBさんは、ニューヨークの高層ビルで眺望抜群の角部屋を自分の部屋として使っていました。
しかし顧客の中心がIBM(本社がニューヨーク)からシリコンバレーの会社に移行してきたこともあり、自らシリコンバレーにオフィスを移転。
『こっちの方が100倍もいいんだよ。
ニューヨークだと地下の駐車場に自分の車を止めて自分の階にあがる。
殺風景なコンクリートの壁を見ながら駐車場を歩くのは楽しいもんじゃない。
こちらは屋外に止めて、緑の芝生を歩く。
リスがいたりするし、自然の風が気持ちいい。
オフィスも2階なので、窓を開けると光や風が入ってくる』
* * *
テレビドラマ『SUITS/スーツ』は9年間も続き、シーズン9で終了しました(弁護士事務所で働く有能なパラリーガル役を演じたメーガン・マークルがヘンリー王子と結婚したことでも有名になりました)。
似たような番組が今後出来るとしても舞台は高層ビルから移転しているかもしれません。
パートナーたちが緑に囲まれた木造の平屋か2階建ての建物の中で、
より良い部屋を巡って権力闘争を繰り広げるとか・・・。
* * *
東京ではいまなお高層ビルの建設が計画されているようです。
変化の兆しは日本にも現れてくるのでしょうか。
日経新聞4月13日(夕刊)によると、新型コロナウイルス感染拡大を受け三菱マテリアルは東京本社を実質閉鎖。
東京都千代田区の本社機能を近郊の小規模オフィスに移し、必要最低限の社員しか出社できない環境をつくり上げたと言います。
日本電産の永森会長は4月21日の日経新聞で、
「東京都内の会社に勤める人が山梨県に仕事部屋のある広い家を建てるケースが増えるだろう」とコメント。
辛酸なめ子さんは朝日新聞(5/1)で、
「コロナ禍で・・『リア充』的な生活が封印・・それは、東京で華やかに見える生活を送っていた人にとっての『没落』かもしれません」。
ほんとうに『東京一極集中、高層ビル化』で良いのか、
今回のコロナ危機は今までの常識を見直す切っ掛けを与えてくれるような気がします。
と、こんなことを話していたら、知人のAさんが、
「日本は変わりませんよ。高層ビルのエレベーターが危ないとなったら、1基のみ社長専用のエレベーターにして対応するでしょうから」。
ま、まさか・・!
| 固定リンク
コメント