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2020年7月 6日 (月)

東京都:都市計画区域の整備、開発及び保全の方針(原案)

東京都が「都市計画区域の整備、開発及び保全の方針(原案)」を策定(『こちら』)。

これに対して都民の意見を求めています(『こちら』)。

以下は、私が送った意見の抜粋です。

(1)現状認識について(新型コロナウイルス感染拡大に伴う価値観、生活様式の変化)

ほんとうにこの原案で宜しいのでしょうか。

新型コロナウイルスの感染拡大は私たちの価値観、生活様式に大きな変化をもたらしました。

にもかかわらず、令和2年5月付の本原案はこのことについて一切触れられていません。

下記(2)~(6)で述べるように、新型コロナウイルスの感染拡大によって時代は新しい局面に入っています。

「都市計画区域の整備、開発及び保全の方針(原案)」もこうした変化を反映させて練り直したものであることが求められると思います。

(2)これまでのビジネスモデルが通用しなくなっている

日経新聞4月13日(夕刊)によると、新型コロナウイルス感染拡大を受け三菱マテリアルは東京本社を実質閉鎖。

東京都千代田区の本社機能を近郊の小規模オフィスに移し、必要最低限の社員しか出社できない環境をつくり上げたと言います。

日本電産の永森会長は4月21日の日経新聞で、「東京都内の会社に勤める人が山梨県に仕事部屋のある広い家を建てるケースが増えるだろう」とコメント。

毎日新聞の報道によると、インターネット広告代理会社「アド・プロモート」は今年5月、本社を東京都渋谷区の繁華街、道玄坂から栃木県小山市郊外の国道4号沿いに移転。

同社の吉田英樹社長(50)は「テレワークがこれだけ普及した今、もう東京に本社を置く利点はない。これからは栃木を拠点にやっていく」と話しています。

富士通は全国の支社やオフィススペースなどを段階的に減らし、3年後をめどに、今の5割程度に削減するとしています。富士通は国内の全社員およそ8万5,000人に対して原則、在宅勤務を推奨しており、現在もその体制を継続、オフィスを減らすことで、賃貸料などのコスト削減も見込んでいるということで、今後は、新たな人事評価制度など、オフィス外でも円滑に働けるようなシステムを順次導入していくとのことです。

テレワークがあっという間に普及し、むしろその方が効率的だと述べる企業経営者が増えているにもかかわらず、「都市計画区域の整備、開発及び保全の方針(原案)」は旧来型のビジネスモデルを前提としています。

正式制定前から「都市計画区域の整備、開発及び保全の方針」は現在の時代についていけていません。時代遅れになってしまっています。

(3)満員電車モデルの終焉

なぜ多くの企業は行動様態を変えつつあるのでしょうか。

(A)効率性・生産性の向上:テレワークの比率をたとえば50%くらい(注:比率は業態で変わる)入れ込んだ方が、全員出社よりも全体としての効率性が増し、生産性が高くなる。

(B)コスト削減:都心のオフィスは家賃が高い。これを極力減らしたい。従業員への通勤手当支給もカットできる(カルビーは定期代を全社的に全廃)。

(C)有望な人材確保:企業にとっては人材がすべて。優秀な人材の確保という観点からすると、毎員電車通勤はリスクも高く、有能な人材をひきつけることが出来ない。

(D)リスク管理:ひとたび感染者が出ると、従来型モデルでは建物全部を一時閉鎖。消毒が必要になる。業務が中断してしまい、多大な損失に繋がり得る。

以上のような観点から、企業は従来型の満員電車モデルからの脱却を図ろうとしています。

(4)「中核的な拠点」、「活力とにぎわいの拠点」といった色分けの再検討

以上の諸点を勘案するに、原案が謳う「中核的な拠点」、「活力とにぎわいの拠点」といった色分け自体が再検討の対象となると考えます。

米国のニュースメディア、ブルームバーグによると、
『英銀バークレイズのジェス・ステーリー最高経営責任者(CEO)は4月29日、社会的距離の維持で一度に2人しかエレベーターに乗れなくなるなら、数千人が働くような本店は「過去の産物」になるかもしれないと述べた。こうした懸念は競合他行も示している』とのこと。

また欧州の金融機関のトレーダーたちの8割がロックダウン終了後も在宅勤務希望しているといいます。

米国では高層ビルのエレベーターが感染の観点から危ないと考えられているようで、5月3日付のウォール・ストリート・ジャーナルによると、
『エレベーターは問題となり得る。カリフォルニア大学サンフランシスコ校で疫学を教えるジョージ・ラザフォード(George Rutherford)教授によると、エレベーター内で人と人との距離をじゅうぶんに取ることは殆ど不可能。全員がマスクをつけるべきだし、エレベーターの壁を向いて立たないと誰か他人の息を吸ってしまう。エレベーター内のボタンも危ない』。

(5)ニューヨーク、ロンドン、パリなどの都市計画担当者との情報交換を望む

東京都におかれましては、「都市計画区域の整備、開発及び保全の方針」策定に際して、是非ともニューヨーク、ロンドン、パリなどの都市計画担当者との情報交換をして頂きたいと思います。

新型コロナウイルス感染拡大を受け、彼らがこれからの都市計画をどのように考えているのか、意見を交換し、都の計画に反映させるべきです。

そうでないと、東京だけが時代遅れの計画を策定してしまうことになりかねません。

(6)より大きな箱、より高い箱が求められる時代の終焉

建築家の隈研吾氏は次のように語っています(5月27日、日経トレンド)

「ねずみがはい回る路地裏などの不衛生な環境から脱出するため、箱を中心とした都市づくりが始まった。

それが何百年も続くうちに、より大きな箱、より高い箱が求められるようになった。

箱の中にいれば安全だと考えたが、むしろ箱の中に閉じ込められることに問題があったというのが、新型コロナウイルスから得た一番の教訓ではないか。

建築家は『人間がどう生活するのか』という社会システムをつくる仕事。箱から脱出したいと人々が思い始めることによって、オフィスや住宅などあらゆる建築が想像もしなかった形で変わっていくだろう。」

現状の「都市計画区域の整備、開発及び保全の方針(原案)」も根底に流れる思想は、より大きな箱、より高い箱であるように思いますが、むしろその根幹が違っているのではないか、そうした視点からの再検討が必要であるように思います。

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