三行の献辞
久しぶりに一気に読み終えた本だった。
ご存知のように筆者は波乱万丈の人生を歩んできた人。
それを知るだけでも読者は引き込まれてしまうのだが、それだけではない。
この本には幾つものメッセージが隠されているように思った。
物語は、青山墓地の防空壕に避難するところから始まる。
4歳の筆者は、障害を持つ母と小さな弟をつれて逃げ回る。
『母や弟は、4歳の自分が守らなければならない』。
こう子供心に感じていたようだ。
そもそもこうした恐怖の体験は戦争によって引き起こされたもの。
そしてこの戦争はというと、日本が各国から経済制裁を受け存立の危機に瀕し、
政治家と軍人たちが自存自衛のために踏み切らざるを得なかった・・・
とサラリと書いている。
やがて福島県の浪江に疎開。
敗戦後に東京に戻ってくる。
小学校のときには、保健所からマスクをかけ白い上着を着た人たちがやってきて、頭からDDTを振りかけられたり・・といった幾つかの嫌な思い出が語られている。
19歳になって、スカルノ大統領と仕組まれたように出会わされ、
その後の日本政府による戦争賠償金の事業に利用されたり、
そしてそのスカルノがクーデターによって失脚したり・・。
筆者の人生は時代によって翻弄され続けるのだが、
その陰には、ときに日本政府や政商たち、そしてCIAの影などがチラつく。
280頁を超える本書には一般人の想像を超える数多くの体験談が綴られているのだが、
私は、筆者がいちばん語りたかったのは、実は最初の3行の献辞に凝縮されていると思った。
『この本を、愛する亡き母、弟、
そして、敬愛する亡きスカルノ大統領に
捧ぐ』
この本は今から10年前、筆者が70歳のときに著されたものだ。
70年間、東京、浪江、インドネシア、パリ、ジュネーブ、ロンドン、再びインドネシア、ニューヨーク、東京と舞台は変われど、
筆者の原点は変わらない。
障害を持つ母と小さな弟をつれて逃げ回った4歳の気丈な少女なのだ。
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