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2020年9月29日 (火)

たった4分間の rebuttal

10日ほど前ですが、米国連邦最高裁判事のルース・ベイダー・ギンズバーグ氏が87歳で亡くなりました。

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       ギンズバーグ連邦最高裁判事(from Wikipedia)

後任にトランプが保守派のエイミー・バレット判事(第7巡回区控訴裁判所)を指名したことで全米中が大騒ぎ。

さて、ギンズバーグ氏は、1972年、Charles E. Moritz v. Commissioner of Internal Revenue という裁判(控訴審)で原告側の代理人をつとめました。

彼女がクリントン大統領によって連邦最高裁判事に指名される(1993年)よりも、ずっと前。20年以上も前のことです。

この裁判は、その後、米国で女性が権利を勝ち取っていくうえでの重要な裁判となりました。

これを映画化したのが、『On the Basis of Sex』(日本語版『ビリーブ 未来への大逆転』)です(米国で一昨年に公開)。

映画の中での話になりますが、

この裁判は当初からギンズバーグ氏にとって圧倒的に不利な状況で進められます・・(以降、若干のネタバレあり)。

いよいよ終わりという段階になって、ギンズバーグ氏に残された時間はたった4分間。

その4分間の rebuttal(反論)で、形勢をひっくり返さなければ勝ちは望めません。

ギンズバーグ氏は相手側が口にした『radical social change』という言葉を逆手に取って、奇跡の反撃を試みますが・・。

『合衆国憲法には women(女性)という言葉はひとつも出てこない』

こう発言する判事に対して、ギンズバーグ氏はどう反論したのでしょうか・・。

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2020年9月27日 (日)

財政の崖

今年3月、米国で CARES Act と称される経済対策が実施されました(『こちら』)。総額2兆2,830億ドル。

これはその後、Phase 3.5(日本語で3.5弾)によって拡充が図られています(下図1参照)。

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(出所:三井住友DSアセットマネジメント「市川レポート」20年8月4日『こちら』

しかし、これらの多くの支援策は順次期限を迎えるようになっています(下図2および下図3)。

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(出所:Financial Times 『US heads for fiscal cliff as stimulus fades』『こちら』

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(出所:三井住友DSアセットマネジメント「市川レポート」20年9月25日 『こちら』

弾切れになってしまっては、失業者、一時休業者の生活は一気に困窮します。

そして経済は壊滅的な影響を被ってしまいます。

いわゆる「財政の崖」の発生問題です。

これを回避すべくここ数ヶ月、与野党が協議を重ねてきていますが、第4弾を巡って、民主党、共和党、そしてホワイトハウスがなかなか歩み寄りを見せず、迷走が続いています。

民主党は第4弾として、これまでに3.5兆ドル案を提示、共和党はこれを拒否。

一方、共和党は0.5兆ドルを提案しましたが、民主党が反対。

トランプ政権(ホワイトハウス)は1.3ドル案を示していましたが、これに対して、民主党のペロシ下院議長が先週木曜日の夜、2.4兆ドルを提案。現在に至っています。

はてして崖は回避されるのか、それとも大統領選(11月3日)まで何も決まらないのか。

そうした中、3回予定されているトランプvs. バイデンのTV討論会の第1回目が今週火曜日、クリーブランドで開かれます。

政治の季節が本格化してきました。

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2020年9月23日 (水)

フィリップ・フィッシャーの本

本日は日経CNBCテレビ『日経ヴェリタストーク』に出演しました。

番組の終わりの方で、フィッシャー先生の本について紹介することが出来ました。

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『こちら』で番組をご覧いただけます(13分間の動画です)。

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2020年9月21日 (月)

ドルが覇権を手放す日

1960年代、フランスの経済財政相だったジスカール・デスタン(当時;のちにフランスの大統領)は米ドルが支配する体制について、こう不満を漏らしました。

「米ドル支配は米国に法外な特権を与えている。これにより米国は他国から安い資金を調達でき、米国民は分不相応の生活水準を謳歌できるようになっている」(『こちら』)。

同じような話ですが1990年代。

当時のアメリカ財務長官のルービンは、クリントン大統領(当時)に対して、こう助言しました。

「大統領としていろいろとやりたいことがあるのでしょうが、歴史に名を残したいのなら、ドル高政策を進めることです」。

財務長官に就任する前の四半世紀をウォール街のゴールドマン・サックスで過ごしたルービンは、ドル高にすることで世界の資金を米国に集めることができると考えました。

輸出入といった「もの」の動きよりも、「お金」の動きを重視すべきだと考えたのです。

世界中から集まる資金をテコにして、アメリカの企業が積極果敢に投資を行い、経済を成長させていく・・・彼はこうしたダイナミックな資本主義のモデルが成功すると信じていました(『こちら』)。

* * *

さてこうした考え方がもはや違ってきているとの論評が米外交問題評議会が発行するサイト、FOREIGN AFFAIRSに載りました(『こちら』)。

いったいこれから先、どうなっていくのでしょうか。

今日発売された日経ヴェリタスではその辺のところを探っています。

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同紙48面は、「投資力を磨こう」のコーナーです(下記)。

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2020年9月18日 (金)

秘伝「スタンフォード流の成長株投資術」

株は、「買ったら、値上がりしたところで、売るべきもの」。

こう考えている人は多い。

事実、日本で発行されている株式投資本の多くにもそう書かれている。

「売らなければ、利益は確定しない」。

「売らないままの利益は絵に描いた餅だ」。

しかしスタンフォード大学ビジネススクールで株式投資論を教えたフィリップ・フィッシャー(1907-2004年)はそう考えなかった。

フィッシャーの教えに感銘を受け、彼の後に株式投資論の教授に就いたジャック・マクドナルド教授(1937–2018年)もフィッシャーと同じように考えた。

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(Professor Jack McDonald; From the site of Stanford Business School)

優良な成長株に投資すれば、売るべきタイミングというのはほぼ永遠に来ない(逆にダメな株はさっさと売ってしまうべきだ)。

フィッシャーがモトローラの株式を購入したのは1955年、48歳の時だった。

当時のモトローラは警察(パトカー)やタクシー会社が利用する無線通信の分野でトップを走っていた。

フィッシャーは48歳の時に買ったこの株を、96歳で亡くなるまで50年近く保有し続けた。

その間、モトローラの資本勘定は238倍にもなった。

A、B、C、D、Eという5つの株に10万円ずつ投資したとしよう。

1年後、次のように変化するとした場合、あなたはどうするか。

A:23万円(+13万円)

B:15万円(+5万円)

C:10万円(+-ゼロ)

D:8万円(-2万円)

E:5万円(-5万円)

フィッシャーの教えを貫くならば、C、D、E の株は売ってしまい、そこで得た23万円を投じて、Aの株を買い増す。

たとえ損失を計上するようになっても、ダメな株はさっさと売ってしまい、優良な成長株を買い増すべきなのだ。

過去10年間でアップルの株価は17倍になり、アマゾンは28倍になった。

1997年に上場してからアマゾンの株価は2,000倍以上になった。

 「じゅうぶん高くなった」というのは売る理由にならない。

同様に「こんなに高くなってしまった」というのは、買いを控える理由にはならない。

96歳で亡くなるまでモトローラ株を持ち続けたフィッシャーはこう考えたのである。

* * *

さて、こうした「スタンフォード流の成長株投資術」をもう少し詳しく知りたい方は、私が寄稿した本日の日経新聞電子版記事をご覧ください。

『こちら』(←クリック)です(注:日経新聞電子版のメンバーでなくとも、登録すれば無料でご覧になれます)。

なおフィッシャーの書いた本はこちら(↓)です(クリックすればアマゾンのサイトに飛びます)。

『Common Stocks and Uncommon Profits and Other Writings』

下記の通り翻訳本も出ていますが(翻訳本の方は、私は読んでいないので何とも言えませんが)アマゾンの書評を読む限り、2冊目の方は訳の出来がイマイチかもしれません。

『株式投資で普通でない利益を得る』

『投資哲学を作り上げるー保守的な投資家ほどよく眠る』

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2020年9月14日 (月)

バブルの足音

日本がバブルだった1988~90年の頃、私は日本興業銀行にいた。

取引先との接待は2次会、3次会になることも多く、都心ではタクシーがなかなか捕まらない。

やっとのことで空車を見つけて、行き先(比較的近い場所)を告げると、運転手さんの殺気を感じた。

「この時間帯、若い女性は絶対に乗せないんだよ。夜の店で働く女性に当たってしまうことが多く、彼女たちは近くに住んでいるからな」。

「お客さんを見たとき、こいつは千葉、もしくは横浜に違いないと思って乗せたんだが、何だってんだよー」。

「これじゃあ今晩は台無しだ」。

企業はワラント債などでゼロコストで資金を調達し、その資金で他社の株式を買って儲けていた。

株価は上昇を続け、平均株価指数のPERは60を超え、瞬間的には80を付けた。

バブルの特徴は、

(1)渦中では誰もがハッピーである(とくに傷つく人はいない)

(2)誰もがおかしいと感じていても、それがバブルであると確信が持てない

ことにある。

1999年にはインターネットバブルが米国を襲った。

ドット・コムと名前がつけば、実態がさほど伴わなくとも、高い株価がついた。

1999年から2002年にかけて、NTTドコモは 総額1兆9000億円を投じて、AT&T Wireless など海外の携帯電話会社に次から次へとマイナー出資をしていった。

これらの投資に対して、2002年3月期と2003年3月期の二期だけで合計1兆6000億円の評価損を計上した(この損失を負担したのはドコモの株主であり、高い携帯電話料を払わされた利用者だった)。

さて次に起こったバブルといえば、2006年から07年にかけての証券化商品のバブルだろう。

回収の見込みが殆どないサブプライムローン債権を通常債権と混在させ、CDOなどの証券化商品に仕立て上げる。そして格付け会社の無知に付け込んでAAA格をつけさせる。これが世界中の金融機関にばらまかれた。

投資銀行は活況に沸き、債券部を中心に高額のボーナスが社員に支払われた。

歪な形のビジネスは長くは続かない。

07年6月の段階でベアー・スターンズ傘下のファンドが危機に瀕し、08年3月には本体に波及、J.P.モルガンに救済される形で買収された。

そして同年9月にはリーマン・ブラザーズが破綻した。

繰り返しになるが、バブルの渦中では、誰もがおかしいと感じる。こんなことが永遠に続くはずがないことが分かるからだ。しかしバブルの渦中ではとくに傷つく人はなく、誰もが潤う。

現在の日本の状況はどうなんだろう。

財政の赤字は日銀が国債を引き受ける(形式的にではなく実質的にという意味)ことによって面倒見てくれる。

政府が借金をして税収以上のものを国民に便益を与える目的で支出し続けることは「誰もが潤う」ことだ。

いまはコロナ禍で異常事態なので致し方ない面もある。

しかし時計の針をコロナ前に戻してみよう。

昨年12月閣議決定ベースの政府予算案(つまりコロナ以前)で見ると、

政府は収入(税収63.5兆円)の1.5倍以上の支出(歳出100.9兆円)を予算として計上。

税金の1.5倍もの金額を国民の為に支出してくれる政府。

そして、それを国債購入という形で支える日銀。

国民は「払う」以上のものを「貰える」形になっている。

しかし、こんなことが永遠に続くはずがないーと私は思う。

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2020年9月 6日 (日)

ブランドの極致

街中や高速を走ると、レンタカーやカーシェアリング(いずれも「わ」ナンバー)を多く見かけるようになりました。

最近「わ」ナンバーが足りなくなり、北海道や沖縄では「れ」が使用され始めたのだとか・・。

週末にキャンピングに行く、あるいは実家に行くだけなら、クルマを持つ意味はなくなってきています。

維持にかかる税金、保険、車検、修理、そして都心の場合は車庫代。

こうしたことを考え合わせると、クルマを所有することは、経済合理性の点で疑問視され始めています。

トヨタにとっての最大の敵は、ホンダやメルセデスではなく、人々のこうした考え方の変化にあるのかもしれません。

* * *

Ferrari

さて、クルマを所有することの喜び、運転することの楽しさを極限まで突き詰めた会社がフェラーリでしょう。

時価総額を比べてみると:

トヨタ 23.0兆円

ホンダ 5.0兆円

日産 1.8兆円

これに対して、

フェラーリ 5.2兆円

昨年1年間でトヨタは 1,073万台(レクサス、ダイハツ、日野を含む)のクルマを全世界で作りました。

ホンダは 517万台です。

一方、フェラーリが作ったのは、たったの1万台です。

たった1万台を作る会社の売上高は、

4,745億円(1台あたり47百万円!)

キャッシュフロー(EBITDA)は、

1,599億円(時価総額はEBITDAの32倍)。

* * *

昨年発表されたSF90ストラダーレ(日本での納期は早くても今年後半)は、

フェラーリ初のPHEV(プラグイン・ハイブリッド電気自動車)。

4リッターV8ツインターボエンジンと、3基のモーター及び外部充電が可能なバッテリーを組み合わせ、システム合計出力1000psを発生させます。

最高速度は340km/h、0-100km/h加速は2.5秒。

日本での販売価格は、5,340万円。

見るだけでもワクワクさせる・・。

そんなクルマは滅多にありません。

ブランドの極致とでも言うべきもの。

* * *

テスラの時価総額がトヨタを抜き、フェラーリの時価総額がホンダやGMを抜き去った今。

改めてブランドの持つ意味を考えさせられます。

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