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2020年12月27日 (日)

最近読んだ本

最近読んだ本の感想

【1】財務省人事が日本を決める

人事の話は会社員であれば誰でも興味あるもの。

本書は、日本でいちばん権力を握ると言われてきた財務省の人事を綴るものだから、一気に読めてしまう。

しかし読後の後味は良くない。

日本の中枢にある組織の人事システムが昭和の時代のままである結果、財務省という「組織」は、防衛できたであろう。

自分たちの庭先は綺麗に維持できたーつまり自分たちのロジックで固めることが出来て、キャリア官僚にとっては働きやすい職場を維持できた。

しかし、その反面、どうだろう。

日本の「一人当たり名目GDP」(IMF統計)は、2000年の世界第2位から2019年の第25位まで、崖を転げ落ちるように落下してしまった。

ちなみに「一人当たり購買力平価GDP」(IMF統計)はもっと悲惨で33位。

韓国(30位)にも抜かれている。

もちろんこれは財務省だけのせいではない。

むしろ財務省はその一端の責任を担うに過ぎないのだろう。

しかしはたして財務省は「長期的に経済を成長させていく」という視点で予算配分や税制改革に取り組んできたのかどうか。

財務省は人事制度として、大学時に受けた国家試験の成績をずっと引きずるシステムとか、入省年次に拘った人事システムを踏襲してきている。

民間では大企業でさえ年次をどんどん飛び越えた抜擢が行われている。

それをしなければ世界で繰り広げられる大競争に生き残っていけないからだ。

一人当たりGDPが他国に抜かれていってしまったということは、結局、日本が他の先進国との間で繰り広げられる「経済的豊かさを求める競争」に負けてしまったということだろう。

ネットが拡充し、すべてがデータベース化されつつあり、世の中がもの凄い勢いで変化している時に、昭和の時代の人事制度で立ち向かえるはずがない。

組織として、消費税率20~30%程度を目指していると言うが、その時の一人当たりGDPは幾らであって、出生率は幾らであると想定しているのか。

目指すべき世界の具体的ビジョンなきまま、消費税増税という1点の目標にのみ向かって盲進すれば国民はますます不幸になる。

たいへん良く書けた本ではあったが、こういった書籍が出るのは昭和の時代で最後にして欲しかった。

【2】ブランディングデザインの教科書

本書には著者が直接かかわった案件が数多く登場する。

意地悪な見方をすれば「本書はもしかして著者の会社のPR」と思えてしまうかもしれない。

しかし、読み進むうちに、著者の「日本を良くしたい」「元気にしたい」という熱い思いが伝わってきて、そうした疑念も払拭されてしまう。

本書を読みながら、もう数十年も前の話、具体的には1980年~81年の頃を思い出した。

当時私はスタンフォードのビジネススクールを卒業し、興銀本店の外国部に戻り、海外広報・広告を担当していた。

海外部門担当のK常務は海外広報・広告に力を入れており、部長や副部長の介在を許さない。

班長や我々担当者に対し、自ら「君たちは直轄地だから」と言って、素案の段階から直接K常務に上げるように指示を出していた。

アニュアルレポートの表紙をどうするか、海外の新聞、雑誌に出す広告デザインをどうするか・・。

K常務の部屋で長い時間、頻繁に議論したのを思い出した。

あるとき、広告代理店(日本の最大手)が、アジアの農村地帯における開発金融に焦点をあてた広告の案を持ってきた。

担当者としては、この案がK常務に却下されるのは目に見えていたが、常務に上げない訳にはいかない(そう指示されていたので)。

そして、案の定、K常務は「俺たちはモルガンだとかドイチェバンクなどの欧米の銀行を相手に必死で頑張っている。欧米の一角に食い込もうとしているんだ。今の段階でアジアの農村を強調するわけにはいかない」。

1980~81年なので当時はまだバブルの前。

興銀はThe Industrial Bank of Japan, Ltd. を略したIBJの呼称で呼ばれていたが、そのロゴを決めたのも、この時代だった。

当時、私は「IBJのロゴをデザインするに際し、ソール・バス(Saul Bass)を起用したらどうか」と提案したのだが、残念ながら受け入れられなかった。

しかしその後もずっとソール・バスならばどうデザインしただろうかと思い続けた。

言うまでもなく、デザインは会社の経営にも影響を及ぼす・・。

さて、話を本書に戻そう。

本書にはいろいろな例が出てきて、その一つひとつが勉強になる。

とくに私には「い・ろ・は・す」の話が面白かった。

まず、最初に「い・ろ・は・す」に見たときに私も感じた「何、その名前?」という印象。

そして、ペコペコの薄いペットボトル。

「南アルプスの天然水」といったような採水地のPRもいっさいない。

それでいて、不思議と「い・ろ・は・す」を買ってしまっている自分がいる。

この辺のところを、ブランディングデザインの専門家である著者は見事に説明している。

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