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2020年12月10日 (木)

テスラがトヨタを買収する日

何を馬鹿なと思う人も多いと思います。

その昔、外資系投資銀行にいた時に、ダイムラーとクライスラーが合併しました。

このとき多くの市場関係者の反応は『そんな馬鹿な!』というものでした。

両社の合併は実現はしましたが、案の定、長続きはしませんでした。

M&Aの世界では、ダイムラー・クライスラーのように、時として、(1)あり得ないディール、(2)意味をなさない(make sense しない)ディールが生じてしまうこともあります。

* * *

こういった前提をもとにテスラとトヨタの関係を考えると・・

テスラがトヨタを買収することは、『まずあり得ない』ことです。

しかし頭の体操だけはしておく意味があるように思えます。

まず体力的にテスラはトヨタを買えるのか。

あるいはその逆で、トヨタはテスラを買えるのか。

トヨタの時価総額は現在24兆円。

一方、テスラの時価総額は64兆円。

これだけの差がついてしまうと、トヨタがテスラを買うのは無理ですが、その逆はあり得ます。

株式交換によってテスラがトヨタを買収すべくTOBをしかけてくる・・

こういうシナリオはいちおう成り立ち得ると言えるのです。

議決権を有するトヨタ株の発行済み総数は(第1回AA型種類株式を含め)、

2,803,681千株(今年3月末)。

トヨタが持つ自己株式は株主総会で議決権を持たなくなりますので除外して数えています。

このうち外国人が保有する株数は、

642,787千株。

個人が保有する株数は、

371,858千株。

両者を合わせると、全体の36%に達します。

仮にテスラが、トヨタの現在の株価をたとえば45%ほど上回る、1株=10,656円という値段でTOBをかけてきたら、いったいどうなるでしょう。

現在の株価よりも45%も高い株価であれば、これに応ずるという個人投資家や外国人投資家も相当数出てくると見ておいた方が良いかもしれません。

それでは・・

(1)テスラはトヨタを買収したいと思うか

答えは恐らくノーです。

テスラは実は1823億円のキャッシュしか有していません(今年9月末)。

ですから買収に際して現金を使うことは出来ず、もっぱら株式交換に頼らざるをえません。

自らの貴重な株式を使って、トヨタを買収しても、テスラの現株主はさほど評価せず、むしろ株価が下落してしまう可能性が大。

さらに株式交換によって自らの株式を(トヨタ株と引き換えに)トヨタの株主に渡しても、新しい株主に市場で売られてしまう可能性も大(この場合もテスラ株の下落に繋がる)。

つまり、買収して得るものと買収に伴うコストを比較すれば、テスラにとって、このディールはノーとなる蓋然性の方が大と言えます。

(2)テスラの株価は一時的に高いだけであって、すぐにこのバブルは弾けるのではないか(つまりテスラがトヨタを買収するというディールの想定は客観的にはあり得ない想定ではないか)

テスラの株価がバブルかどうかについては、いろんな意見があって正直よく分かりません。

ただテスラの株価がたとえ今の半分になっても、トヨタよりもまだ3割以上も時価総額が高いので、

トヨタとしては万が一のことを頭の片隅に入れておく必要があるように思います。

(3)トヨタは守り切れるか

もし万が一、テスラが買収を仕掛けてきたとき、トヨタは守り切れるでしょうか。

賢いトヨタのことでしょうから、その辺は抜かりないのでしょう。

しかし機を見るに敏な外国人投資家や個人投資家がすでに議決権の36%を握っていることに留意すべきです。

今後は、この率があまり増え過ぎないように気を付けておいた方が良いかもしれません。

そして、何よりも最大の買収防衛策は株価を上げること。

ゼロ・エミッションの時代はすぐそこまで来ています。

トヨタとしては、これに対する明確なメッセージをあげ、株価をさらにもう一段上げることが重要です。

* * *

いずれにせよ、この話はたんに頭の体操に過ぎません。

そしておそらくは上記(1)の理由により、実現可能性が1%もないような『意味のない』頭の体操に終わってしまうものです。

しかしそれは裏を返せば、トヨタがそれほど魅力ある存在とは思われていないということに繋がりかねず、日本人としてはちょっと面白くありません。

昨日発売になった「MIRAI」などは、初代を圧倒的に上回る操作性と居住空間を実現しているようです。

ゼロ・エミッションはなにも電気自動車だけの世界ではありません。

燃料電池車にも世界の市場で頑張って欲しいと思います。

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