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2021年1月31日 (日)

何が起こっている? 米国市場

2010年にまで遡る。

スタンフォード大学で数学を専攻し、ルームメートだったバイジュ・バットとブラド・テネブ。

彼らはニューヨークへ行き、HFT(high-frequency trading;高速トレード)ソフトの会社、Celerisを立ち上げる。

さらに翌年には Chronos Researchを創業。

ニューヨークのヘッジファンドに彼らのソフトを販売するうちに、2人はあることに気づく。

「ウォール街の大手の会社は自分たちのトレーディングにほとんど手数料を払っていない。だけど個人投資家は株式の売買に1件、1件、手数料を払わされている!」

そこで彼らはカリフォルニアに戻り、2013年、ロビンフッドを立ち上げる。

これはネット証券の一種だが、売買手数料が無料。

しかもスマホで気軽に取引できるのが特徴。

モバイルゲームのような感覚で、株式やオプションを取引でき、単元未満での売買も可能。

ここで少々解説を加えると、たとえ手数料が無料であっても、個人投資家は株式売買の為に一定の現金を置いている。

ロビンフッドとしては、そこで金利収入を得ることが可能だし、PFOF(ペイメント・フォー・オーダーフロー)と呼ばれる取引で収益を得ることも出来る。

PFOFとは、顧客の注文データをマーケットメーカー(値付け業者)に流すときに受け取る一種のリベート。

マーケットメーカーたちは小口取引の方が注文を履行しやすいので好む傾向にあり、慣行としてリベートが支払われてきた(注:現在問題化している。『こちら』及び『こちら』)。

CNBCによると、ロビンフッドのユーザーは1300万人もいるらしい(『こちら』)。

さて、ここまでが、今回起きた米国の個人投資家の「乱」の背景と言うか、舞台装置だ。

* * *

ロビンフッドというプラットフォームを使い、スマホのゲーム感覚で株式売買を行う個人投資家たちが1300万人にも上った。

これら個人投資家たちの中には、Reddit(レディット)と称されるサイト(とくに WallStreetBets と称されるコミュニティ)で情報交換をする人たちが出てくるようになる。

そして彼らが目を付けたのがゲームストップという会社の株。

コンピュータゲームの小売店で、世界10ヵ国に販売店舗5000店を展開する会社だ。

いちおうFortune 500 という米国の売上高ランキング上位500社の一角を占める会社だが、本来はこれといった注目を集めるような会社ではなかった。

売上高65億ドル(2019年度)。

年間の損失額5億ドル。

この会社の株は今月12日までは20ドル前後だった(1年前の株価は3~4ドル)。

その会社の株価が今月13日から上がり始め28日には一時483ドルを付けた。

約10日間で20ドル→483ドルと24倍になってしまったのだ。

1月28日、このたった一日の間の値動きを見ても、安値112ドル~高値483ドルと4倍の振れ幅があった。

下図は5年間の株価の動き。

  Gamestop

さて、株価急騰によりこの会社は現在、時価総額227億ドル(2.4兆円)をつけている。

価格形成がおかしいと考えれば、空売りして利益を上げようとするのが相場のプロであるヘッジファンドの連中だ。

当然、ゲームストップ株にはヘッジファンドが空売りを仕掛けてきた。

しかしここから先の展開が通常とはまったく異なってしまった。

なんと、このヘッジファンドの動きに個人が立ち向かったのである。

「みんなで株を買って値を上げて、ウォール街の奴らを懲らしめよう」

こういった書き込みがReddit(レディット)に載り、個人の買いが集中。

とうとう個人が空売り勢に打ち勝ってしまったのだ。

ちなみに空売りとは、よそから株を借りてきていったん売り、一定期日までに買い戻して株を返す取引。

買い戻す際に予想通り株価が下がっていれば差額が利益になるが、予想に反して株価が上がれば損失はどんどん膨らむ。

株価はマイナスにはならないので、利益の額は有限だが、損失額の方は無限に広がり得る取引だ。

今回の騒ぎで、ヘッジファンド勢は総額でなんと190億ドル(約2兆円)の損失を被ったと報じられている(『こちら』および『こちら』)。

ヘッジファンドの中には損失を穴埋めするために、あるいは、顧客から換金を迫られた結果、GAFAなどの主力株を売却したところも出てきたようだ。

こうした動きは当然のことながら相場全体にとって売り圧力となって作用する。

ダウ平均株価は先週金曜日に、1か月半ぶりに3万ドルの大台を割り込んでしまった(29,982ドル)。

ダウ採用銘柄やGAFAの株を買っていた投資家は、とんだ「とばっちりを食らう」ことになってしまった訳だ。

しかも問題はこれでは終わらないことだ。

ゲームストップ株だけでなく、映画館運営のAMCエンターテイメント、シルバー(銀)なども個人投資家の関心を集めている。

また一方で、これは一種の「あおり行為」ではないかといった意見も出ている。

かつてSECのコミッショナーを務めたLaura UngerはCNBCのインタビューに答えて、

「当然のことながらSECでは何をなすべきかが検討されているだろう。

本件のポイントは、かげでこそこそと悪事が行われたということではなく、オープンで誰もが見れる掲示板での書き込みによって株価が高騰したということだ。

SECは必要と考えれば、ゲームストップ株の取引を停止することも出来る」

とコメントしている(『こちら』)。

こうした動きを知ってか知らずか、WallStreetBets には早速次のような書き込みが出現(『こちら』)。

「市場操作の証拠を探すべく、SECはWallStreetBets をモニターしているが、彼らが見つけたのは糞みたいな書き込み(shitposts )とミームだけだった」(注:ミームについては『こちら』を参照)。

* * *

マーケットが翻弄されるのはしばらく続くかもしれない。

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2021年1月24日 (日)

GAFAM

S&P500は昨年1年間で16.3%上昇した(3,230.78→3,756.07)。

これをGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフトの5社)が上昇したことによる寄与分と、それ以外とに分解してみる。

5社の時価総額合計は昨年1年間で56%上昇(4.81T→7.51T)。

それ以外の495社の時価総額は1年間で10%上昇(21.95T→24.15T;『こちら』を使って算出)。

つまりS&P500が16.3%上がったと言っても、GAFAM5社の寄与分が圧倒的に大きかったことが分かる。

彼らが牽引することでマーケット全体が上がったのだ。

別の見方からすると、S&P500に投資するよりも、GAFAM5社の株を買った方が良かったということになる(少なくとも昨年1年間のパフォーマンスを見る限り)。

ちなみにGAFAM5社は、時価総額ベースでS&P500の24%を占める(昨年末ベース)。

* * * *

さてそのGAFAMが今週から来週にかけて決算を発表する。

まずはマイクロソフト。

発表は26日(火)。

市場はEPS 1.64ドル、売上40.18十億ドルを予想するが・・。

なお、この会社は過去4期連続で市場予測を上回る実績を上げてきている。

翌日、27日(水)にはアップル、フェイスブック、テスラが決算を発表。

  Apple

(写真はアップル本社ビル、総工費5000億円超。『こちら』

アップルについては、市場はEPS 1.40ドルを予想。

先週木曜日、モルスタの Katy Huberty はアップルの目標株価を144ドルから152ドルに引き上げた(『こちら』)。

先週末時点で株価は139.07ドル。

決算発表後、株価はどう動くだろうか・・。

フェイスブックについては、市場はEPS 3.15~3.20ドルを予想。

テスラもこの日が決算発表。

すでにテスラの時価総額はフェイスブックを抜き、米国で5番目に大きな会社となっている(世界で7位,『こちら』)。

さすがにここまで株価が高くなると、バリュエ―ション的に理解を超えてくる。

ということで、先週テスラを売却した。

持っていて、面白い株であっただけにちょっと名残惜しい。

安くなれば買い戻してもいいが、逆にこのまま高値を更新し続け、2度と買えないかもしれない。

なおグーグルとアマゾンは2月2日(火)に決算を発表する予定。

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2021年1月20日 (水)

米国は傷を癒せるか

日経CNBCテレビ『日経ヴェリタストーク』に出演しました(昨晩9時30分)。

  Veritas_20210119162601

『こちら』でご覧いただけます。

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2021年1月17日 (日)

アウトライヤーなのか?

アウトライヤー(outlier)とは、統計学でいう「外れ値(はずれち)」。

他の値から大きく外れた値のことを言う。

先週金曜日、Barron's に

『ジェレミー・グランサム氏のバブルに関する予想はアウトライヤーだ。さて彼は正しいのだろうか』

(Jeremy Grantham’s Bubble Forecast Is an Outlier. Is He Right?)

と題する記事が掲載された(全文は『こちら』)。

この記事の著者、Jack Hough氏は言う。

「グランサム氏の『現在はバブル。まもなく破裂する』との見解は、outlier だ」。

「アナリストの多数は、UBS の Keith Parker 氏(chief U.S. stock strategist)のように

『株価は今年の前半で更に 5% 程度上がる』

と考えている」。

* * *         

しかしジェレミー・グランサム氏と言えば、

(1)1980年代末期の日本のバブルとその崩壊を事前に指摘

(2)2000年のITバブル崩壊を予想

(3)2008年のリーマンショックについても事前に警鐘を鳴らした

として知られている。

とくに1980年代後半、当時の日本株は株価収益率(PE Ratio)で65倍以上にも達した。

これはおかしいと考えた彼のファンドは、日本株をいっさい組み入れなかった。

実は、彼が日本株バブルを指摘した後も、しばらくは日本株バブルが続いた。

このため、彼のファンドは、他のファンドに比べて、3年間、運用成績が劣後した。

しかし89年末をピークにして、90年初頭から日本株のバブルが崩壊し始める。

結果的に彼のファンドは、投資家に大きなメリットをもたらした。

これは今でも語られる有名な話だ。

* * *         

ところで、今回の Barron's の記事は、グランサム氏による今月5日付け寄稿文を受けて書かれたもの。

「 WAITING FOR THE LAST DANCE」

(最後のダンスが近づいている)

と題する寄稿文だ(全文は『こちら』)。

この中で、グランサム氏は、自身がテスラ車に乗っていることに触れながら、

テスラ車の販売台数1台あたりのテスラ時価総額(つまり『テスラの時価総額』を『テスラの年間販売台数』で割った数字)は

125万ドル(1億2900万円)になると指摘。

ちなみにGMの場合は、この数字は9000ドル(93万円)に過ぎないという。

* * *

さて、マーケットの参加者たちはグランサム氏の警鐘をどこまで受け入れるか。

現在ダウの株価収益率(PE Ratio)は25倍。

S&PのPE は、24倍(『こちら』)。

ちなみに日経平均の PE は26倍。

東証一部、28倍(『こちら』)。

株価収益率(PE Ratio)については、歴史的に見て、平均的には14倍程度だったと教えられてきている。

しかし最近の超低金利下では旧来の常識は通じず、20倍を超えることも正当化されてきている。

* * *

バブルの時にはアナリストたちは、何が起きても自分たちの好都合に解釈する。

たとえば、ジョージア州の上院議員投票(1月5日)で、2議席を1対1で共和党、民主党で分け合ったら、共和党が上院の過半を占める。

当初は、その方が株式市場にはプラスに働くと言われていた。

ところが、投票の結果は2議席とも民主党が獲得。

結果、上院は総勢で50対50となり、議案採決に際し可否同数の場合には、議長(=副大統領)が決裁票を投じることになった。

つまり上院でも民主が実質的に過半を占めることになったのだが、このことが判明すると、株価は(当初予想に反して)もう一段上昇した。

グランサム氏は日経ヴェリタス紙(本日付)のインタビューで次のように述べている。

『バブルの本質は究極のプラス思考だ。・・(ジョージアの件では)市場参加者は民主勝利によるネガティブな面を気にしなくなり、ポジティブな面を強調するコメントであふれた』。

グランサム氏の言うように、いまがラストダンスを待っている状況ならば、ダンスが始まるのを待って、一緒になってダンスを踊り、それが終わる直前に全株売却するのが得策だ。

問題は、そうした神わざ的トレードは一般人には出来ないことだ。

19日(火曜日)の市場があまり動かなかったとした場合、大統領選の投票日(11月3日)から大統領の就任日(1月20日)まで株価(S&P500)は13%上がったことになる。

これは1952年以来、最大の上昇率となる。

それまでの記録はJFK(ケネディ大統領)の8.8%だった(『こちら』)。

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2021年1月11日 (月)

ホロドモール

ホロドモール。

ウクライナ語で「飢饉(ホロド)」で「苦死(モール)」させることを意味するらしい。

1932年から1933年にかけてウクライナでおきた「人為的な」大飢饉のことで、諸説あるが3百万人から12百万人が死んだという(多数説は3.5百万人)。

「人為的な」というところがポイントで、当時のソ連(スターリン)にとってウクライナの小麦は貴重な外貨獲得手段であった為、厳しい食料徴発が行われた。

また飢餓が発生しても、それを覆い隠し、外に支援を求めることを一切しなかった。

国内パスポート制が導入され、農民達は農奴さながらに村や集団農場に縛り付けられた。

当時、このホロドモールを報じたのが英国人ジャーナリストの Gareth Jones で、このときの様子が映画化されている。

『赤い闇』(原題:Mr. Jones)という映画で、昨年8月に公開された。

ただコロナ禍で映画館に行く気になれず、DVD化されるのを待っていて、ようやく昨晩これを観た。

 映画では『動物農場』を書くジョージ オーウェルが冒頭はじめ何箇所で出てくる(映画の最初では何のことか分からなかった)。

静かで淡々と映像を重ねていくことで物語を構築していく手法で、カメラワークにも工夫が凝らされ、良く出来た映画だと思った。

* * *

実は、私は1979年に米国でアレンジされたバスツアーに参加し、当時のソ連をヴィボルグ、レニングラード、ノヴゴロド、カリーニン、モスクワ、スモレンスク、ミンスク、ブレストと旅したことがある。

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広大な大地に圧倒されたが、当時のソ連は、モスクワ、レニングラード、スモレンスクなどの都市を一歩出れば、一変して、貧しく、人々の暮らしぶりはたいへんそうだった。

何時間もバスで移動したのだが、トイレ休憩の場所は無く、バスを停めて、男性は道路の右側、女性は左側といった具合に分かれて、草むらで用足しした。

ホテルでは各階に監視の人がいて、我々宿泊客が食事などで部屋を出ている際に、誰か(恐らくは監視の人)が部屋の中に入り、荷物を全部チェックされた。

米国人ガイドはツアー客に対して、前もってソ連に入る前に「聖書を持参するな。持ってきた人は置いていくように」と注意していた。

今ではもちろん状況は全く違ったものになっているのだろう。

ソ連ではなく、もはやロシアになって久しいのだから。

それでも・・

2014年にはウクライナ騒乱が起き、ロシアによるクリミア半島併合が行われたりしている。

映画を観終わって、ジョージ オーウェルの『動物農場』『一九八四年』を読んでみようと思った。

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2021年1月 3日 (日)

ノールールズ

ネットフリックスは恐ろしい会社だ。

その快進撃ぶりは競合他社にとって脅威でしかない。

株価は上場後18年間で446倍になった。

100万円を投資していれば4億円を超えている。

同じ期間に例えば日テレの株価は▲65%減少している。

しかしそんなことはどうでもいい。

何よりも恐ろしいのはそのカルチャーだ。

ネットフリックスでは最高の人材を採用する。

そこまでは問題ない。

どの会社でもそういったことを謳う。

問題はその次。

圧倒的な成果を挙げられなければ、社員はじゅうぶんな退職金を与えられて捨てられる。

こうしたことを公言してはばからない。

もう一つ。

社員の休暇日数を指定しない。

「休暇日数を指定しない」って、そんなことを公言すれば誰も休暇を取ろうとしなくなるではないか。

ブラック企業のように休暇が取りにくくなるのではないか。

しかしそれがそうでもないらしい。

2018年の調査ではネットフリックスはグーグル(2位)を上回り、最も働きたい会社に選ばれた。

実際、日本の優秀なITエンジニアの間でもネットフリックスに移る動きが見られるらしい。

全米4万5000社で働く500万人以上を対象に行われた調査では、ネットフリックスは社員の幸福度ランキングで第2位に選ばれている。

休暇規程がないばかりか、ネットフリックスには経費規程、出張規程もない。

こうしたことをネット上で公開している「ネットフリックス・カルチャー・デック」と呼ばれる127枚のスライドのうちの1枚には

「服装規程もないが、誰も裸で出社しない」とも書かれている。

たしかに優秀な人材で組織をつくれば、コントロールの大部分は不要になる。

しかしネットフリックスのカルチャーはこれまでのマネジメントの常識を根底から覆すものだ。

詳しくはネットフリックスのCEOとINSEADの教授が共同で著した『NO RULES(ノー・ルールズ)』という著書に記されているが、これを読むとまさに頭をハンマーで殴られたような衝撃。

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自分が如何に古い人間であったのかが痛感させられる。

実はネットフリックスについては、これまでいろいろなところで話を聞いてきた。

たとえばテレビのリモコン。

最近のテレビのリモコンはどれも目立つ位置にネットフリックスのボタンがついている。

これはネットフリックスがリモコン製造コストのかなりの部分を負担するから、自社に作らせてくれと話を持ち掛けた結果なのだとか。

しかしこうした幾つかの逸話よりも衝撃的な内容がこの本に綴られている。

・ルールが必要になる社員は雇わない

・承認プロセスは全廃

・社員全員にヘッドハンターからの電話はぜひ受けて欲しいと訴える(実際にヘッドハンターのリストも社員に渡す)

・社員に対しては成果連動型ボーナスの制度を使わない。その原資があれば最初から給与に上乗せする

こうしたカルチャーを構築していかないと超優秀な人材確保の競争に敗れてしまう。

そこまで米国のIT企業はシビアな競争にさらされているのだ。

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2021年1月 2日 (土)

ランティエ

先日ご紹介した日経ヴェリタス(1月3日付)寄稿記事ですが、一足早く日経新聞(電子版)に掲載されています。

『こちら』です。

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(なお画像はシドニー・パジェットの描いたホームズの肖像(1904年))

 

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2021年1月 1日 (金)

明けましておめでとうございます

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      Man milking cow ; Egyptian Museum, Cairo 

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