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2021年1月17日 (日)

アウトライヤーなのか?

アウトライヤー(outlier)とは、統計学でいう「外れ値(はずれち)」。

他の値から大きく外れた値のことを言う。

先週金曜日、Barron's に

『ジェレミー・グランサム氏のバブルに関する予想はアウトライヤーだ。さて彼は正しいのだろうか』

(Jeremy Grantham’s Bubble Forecast Is an Outlier. Is He Right?)

と題する記事が掲載された(全文は『こちら』)。

この記事の著者、Jack Hough氏は言う。

「グランサム氏の『現在はバブル。まもなく破裂する』との見解は、outlier だ」。

「アナリストの多数は、UBS の Keith Parker 氏(chief U.S. stock strategist)のように

『株価は今年の前半で更に 5% 程度上がる』

と考えている」。

* * *         

しかしジェレミー・グランサム氏と言えば、

(1)1980年代末期の日本のバブルとその崩壊を事前に指摘

(2)2000年のITバブル崩壊を予想

(3)2008年のリーマンショックについても事前に警鐘を鳴らした

として知られている。

とくに1980年代後半、当時の日本株は株価収益率(PE Ratio)で65倍以上にも達した。

これはおかしいと考えた彼のファンドは、日本株をいっさい組み入れなかった。

実は、彼が日本株バブルを指摘した後も、しばらくは日本株バブルが続いた。

このため、彼のファンドは、他のファンドに比べて、3年間、運用成績が劣後した。

しかし89年末をピークにして、90年初頭から日本株のバブルが崩壊し始める。

結果的に彼のファンドは、投資家に大きなメリットをもたらした。

これは今でも語られる有名な話だ。

* * *         

ところで、今回の Barron's の記事は、グランサム氏による今月5日付け寄稿文を受けて書かれたもの。

「 WAITING FOR THE LAST DANCE」

(最後のダンスが近づいている)

と題する寄稿文だ(全文は『こちら』)。

この中で、グランサム氏は、自身がテスラ車に乗っていることに触れながら、

テスラ車の販売台数1台あたりのテスラ時価総額(つまり『テスラの時価総額』を『テスラの年間販売台数』で割った数字)は

125万ドル(1億2900万円)になると指摘。

ちなみにGMの場合は、この数字は9000ドル(93万円)に過ぎないという。

* * *

さて、マーケットの参加者たちはグランサム氏の警鐘をどこまで受け入れるか。

現在ダウの株価収益率(PE Ratio)は25倍。

S&PのPE は、24倍(『こちら』)。

ちなみに日経平均の PE は26倍。

東証一部、28倍(『こちら』)。

株価収益率(PE Ratio)については、歴史的に見て、平均的には14倍程度だったと教えられてきている。

しかし最近の超低金利下では旧来の常識は通じず、20倍を超えることも正当化されてきている。

* * *

バブルの時にはアナリストたちは、何が起きても自分たちの好都合に解釈する。

たとえば、ジョージア州の上院議員投票(1月5日)で、2議席を1対1で共和党、民主党で分け合ったら、共和党が上院の過半を占める。

当初は、その方が株式市場にはプラスに働くと言われていた。

ところが、投票の結果は2議席とも民主党が獲得。

結果、上院は総勢で50対50となり、議案採決に際し可否同数の場合には、議長(=副大統領)が決裁票を投じることになった。

つまり上院でも民主が実質的に過半を占めることになったのだが、このことが判明すると、株価は(当初予想に反して)もう一段上昇した。

グランサム氏は日経ヴェリタス紙(本日付)のインタビューで次のように述べている。

『バブルの本質は究極のプラス思考だ。・・(ジョージアの件では)市場参加者は民主勝利によるネガティブな面を気にしなくなり、ポジティブな面を強調するコメントであふれた』。

グランサム氏の言うように、いまがラストダンスを待っている状況ならば、ダンスが始まるのを待って、一緒になってダンスを踊り、それが終わる直前に全株売却するのが得策だ。

問題は、そうした神わざ的トレードは一般人には出来ないことだ。

19日(火曜日)の市場があまり動かなかったとした場合、大統領選の投票日(11月3日)から大統領の就任日(1月20日)まで株価(S&P500)は13%上がったことになる。

これは1952年以来、最大の上昇率となる。

それまでの記録はJFK(ケネディ大統領)の8.8%だった(『こちら』)。

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