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2021年3月28日 (日)

安すぎるニッポン

日経新聞の記者が書いた『安いニッポン』

この本の内容は帯に凝縮されていると言えよう。

いわく「年収1400万円は低所得」。

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日本は過去20年、いや今となっては30年かもしれないが、ずっとデフレだった。

一方で、海外はそれなりにインフレだったから、いつの間にか差がついてしまった。

本の裏表紙。

こちらの帯にはもっと多くの情報が並ぶ。

これによると日本人の平均年収はアメリカの59%。

約半分しかない。

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本書では日経新聞の記者が何人かで協力して取材にあたっているので、海外の状況が丹念に調べ上げられている。

そこに浮かび上がる実態は、題名の『安いニッポン』どころか、もっと悲惨。

『安すぎるニッポン』であり『買いたたかれるニッポン』だ。

ところで、この種の著作には2つの大きな反論が生じがち。

反論のひとつ目。

『それって為替レートの問題じゃないのか』。

為替の要因もたしかにあるのだろうが、主たる要因と言えるのかどうか。

たぶん違う。

詳しくは、本書の40~44頁で説明されている。

もう一つの反論。

『安いことは生活しやすいことだし、何か問題でもあるのか』。

これに対する反論も本書の随所で語られているが、

本書227-229頁に改めてまとめて記載されている。

それではいったい解決策はあるのか。

本書には労働市場の硬直化の是正など幾つかのヒントが掲げられている。

河野さん(BNPパリバ)はこうコメントする(本書248-249頁)。

『安いニッポンから脱するためには、国は課税の方法を考える必要がある。

アベノミクスでは消費税増税と法人税減税を行ったが、付加価値は資本所得と労働所得の合計であることを考えると、その組み合わせは労働所得への課税強化を意味し、労働に不利な税制改革を続けてしまったと言うことである』 

ところで本書ではあまり触れられていないが、『安いニッポン』は実は『超安い日本の地方』でもある。

それは例えば日本の地方都市に行って食事をしてみれば分かるだろう。

本書には港区の住民の平均所得は年約1217万円と出てくる(82頁)が、

これは地方で暮らす人にとっては信じられない数字に違いない。

この日本の地方の問題をどうするか。

都心に住む人がもっと気軽に、そして安く、地方に行ければ地方は活性化する。

地方で消費するからだ。

米国だと高速道路は基本無料だし、クルマに乗って他州に遊びに行くことも多い(ガソリン代も安い)。

ところが日本ではそうはいかない。

安いニッポンでも都会に住む人が地方に行くには意外とコストがかかるのだ。

何よりも高速代が高い。

繰り返すが、地方は東京などよりも、もっと難しい状況に置かれている。

これはGoTOトラベルといった一時的処方箋では解決しない。

高い移動料金といった根本的問題にメスを入れる必要があるように思う。

戦国時代、織田信長は、通行税(関銭)を取る関所を廃止し、人やモノの流れを活発化させたのである。

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2021年3月24日 (水)

世界および日本の半導体関連会社

世界の時価総額ランキングというサイトがあります。

時価総額の大きい順に世界の会社を並べているのですが、毎日アップデートされるため、私はよくこのサイトを眺めています。

『こちら』のサイトです。

昨年、急速にこのサイトの上位に登場し、ことし2月末にはとうとうトップ10にランク入りした会社があります。

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TSMCという台湾の半導体を受託製造する会社です(現在は世界ランキングで11位)。

ちなみにインテルは30位、NVIDIAは23位。

日本勢は半導体関連では上位に見当たりません。

日本最大の時価総額を誇るトヨタ自動車は世界47位につけています。

TSMCの急成長に象徴されるように世界の半導体業界では大きな変化が生じています。

昨晩出演した日経CNBCテレビ『日経ヴェリタストーク』では世界および日本の半導体業界について話しました。

『こちら』です。

なお番組内の私のコメントで、NVIDIAの売上がインテルの21%と言うべきところを6%と言ってしまいました。

あとで制作スタッフの方に文字スーパーを入れて対応頂きました。

謹んでお詫び申し上げます。

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2021年3月21日 (日)

半導体不足による自動車減産

本来、景気を牽引することが期待されていた自動車産業。

にもかかわらず、ここにきて各社が減産発表を余儀なくされています。

たとえばトヨタだけを例にとっても:

【1月10日】米南部テキサス州の工場で1車種の生産を減らす方針。世界的な半導体不足を受けた措置(『こちら』)。

【2月19日】福島県沖地震に伴う部品の調達不足。8工場の稼働停止延長。減産3万台(『こちら』)。

【3月17日】米ケンタッキー、ウエストバージニア両州とメキシコの計4工場で減産。「石油化学製品の不足」と「最近の悪天候」が原因(『こちら』)。

とくに車載半導体の不足は自動車各社共通の悩みのようで、例えば本日発行の日経ヴェリタス紙はこう報じています。

『「半導体不足がなければ昨年度を上回る営業利益を報告できた」。2月9日、ホンダの倉石副社長は決算会見で悔しさをにじませた。』

そのほか、半導体不足に起因する減産、操業停止など、主なニュースだけを拾ってみても次のような状況(『こちら』)。

フォルクスワーゲン:北米やヨーロッパでの生産を調整

ホンダ:鈴鹿および米、カナダ、中国の工場で減産。英の工場、操業一時停止。

日産:神奈川の工場で減産

SUBARU:群馬の3工場で操業一時停止

フォード:オハイオ州及びケンタッキー州の工場を減産、もしくは操業一時停止(『こちら』

GM:北米4工場で減産(『こちら』

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(日経ヴェリタス最新号によると1台1000個以上の半導体を搭載する高級車も。

なお写真は電気自動車なので搭載される半導体は更に一段と多い模様)

* * *

さて、そんな中です。

昨年10月に旭化成の延岡(宮崎県)の半導体工場で火災が発生(『こちら』)。

延岡の操業の目途は今になっても立っていないのだとか・・(『こちら』)。

そして3月19日、今度はルネサスの那珂工場で火災が発生(『こちら』)。

そもそも何故、車載用半導体が世界的な供給不足に直面するようになったのでしょうか。

諸説ありますが、昨年9月にトランプ政権は中国のSMICへの制裁を本格化させました(『こちら』)。

これを受け、SMICへ生産を委託していた半導体メーカー各社(欧米勢)は、委託先を台湾のTSMCとUMCの2社、そして米国のグローバルファウンドリーズなどに変えます。

そしてこの結果、これら台湾、米国勢などのファウンドリー(半導体製造受託会社)の操業が能力的に余裕のないものとなってしまった、といった事情があるようです(週間エコノミスト3月23日号)。

世界の半導体メーカーの主流は、自らは工場を持たずに(ファブレス)、生産をファウンドリー(製造受託会社)に委託するというものでした。

しかし生産の委託先が一部の大手ファウンドリーのみに集中することで、今回のような世界的な供給不足の問題が出現しやすくなってしまったということなのでしょう。

ちなみにTSMCは世界のファウンドリーで過半の56%のシェアを握ると言われています(『こちら』)。

株価は19年末に比べて(約1年3ヶ月で)8割上昇。

時価総額は59兆円で、トヨタ(28兆円)の2倍。

時価総額の世界ランキングで11位を占めるに至っています。

自動車会社の視点で見ると、「下請け(半導体メーカー)の下請け(ファウンドリー)」と思っていた先が、いつの間にか超巨大化していたということなのでしょうか。

ところで、日本のルネサスは、世界的にファブレスが主流になる中で、ファブライト(工場軽量化)路線でやってきました。

那珂工場の迅速なる復旧を願ってやみません。

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企業の活性化

どうしたら日本企業を活性化させることが出来るだろうか。

そうした観点から書かれたのが『ダイナモ人を呼び起こせ』

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ダイナモ人とは筆者の造語。

もともとは発電機を意味するdynamoは、

He is a real dynamo. (彼は疲れを知らぬ精力家だ)といったような形で使われることもあります。

行動力があって、熱量が高く、自ら動く人物、変革をもたらす人物。

こうした人物を筆者はダイナモ人と呼び、こうした人材が日本企業に活力をもたらすことを期待します。

ここで少し話題がそれますが、もう20年以上も前に聞いた話(だからこそ、こうして今、書くことが出来るのですが)を2つほど・・。

一つは大蔵省(当時はこう呼ばれていました)の人事システムに関するもの。

キャリアと称する人たちは実は入省時の成績ですでにかなりの程度「ふるいわけ」されている(繰り返しますが20年以上も前の話で、今はどうか分かりません)。

通常キャリアの大蔵官僚は若くして税務署長になるのですが、優秀な人材は難しい地域(問題が起こりそうな地域)の税務署長には送られない。

将来の次官、局長候補のキャリアに傷がつくようなことがあっては不味いから、といった配慮なのだとか・・。

一方で、ロイヤルダッチシェルの人事システム(これも20年以上も前に聞いた話で、今はどうか分かりません)。

若いうちに世界の僻地に飛ばす(石油や天然ガスの開発の現場は過酷な地域が多く、シェルにとって僻地は事欠きません)。

そしてそこを生き延びた人材のみを本社の中枢に呼び戻す・・。

2つの正反対のシステムなのですが、『ダイナモ人』を読んでいて、ふと大昔に聞いたこんな話を思い出してしまいました。

話を元に戻しますと、日本企業の中には潜在的にはダイナモ人たる人材がたくさんいるのだと思います。

しかし、はたして彼らは覚醒し、日本企業を牽引していくのかどうか。

いま日本で元気な企業の多くは20年前にはベンチャーに近いような企業でした。

・・ソフトバンクグループ(1994年上場)

・・ユニクロ(1997年上場)

・・楽天(2000年上場)

こう考えると潜在的ダイナモ人が大企業内で覚醒するのを待つよりも、

20代、30代の起業家たち(彼らこそダイナモ人でしょう)に期待した方が早いようにも思えるのですが、さて・・。

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2021年3月12日 (金)

イノベーションは企業価値を異次元にワープさせる

つまり、投資の世界では、イノベーションへの嗅覚が投資を異次元の世界へと引き上げる・・。

こうした観点から記事を書いてみました(本日の日経新聞『こちら』)。

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紙で読みたい方は14日の日経ヴェリタス紙に掲載されます。

(画像は出版権の関係で敢えて判読できないようにしています。すみません。上記のリンクをクリックしてお読みください。) 

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2021年3月 7日 (日)

10年違えばぜんぜん違う

『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』を読みました。

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斬新なカバーで、否が応でも目に入ってくる・・装幀者を見たら水戸部功さんでした(『こちら』)。

この本は昨年米国で出た『The Future Is Faster Than You Think』の翻訳本。

原書の方は3部作の三冊目であることを『はじめに』で明記しているのですが、翻訳本ではなぜか原本の『FOREWORD』の最初の頁(3パラグラフ)が全て飛されて翻訳されず、3部作ということが分からないような形で出版されています(それ自体、翻訳本によくあることで、別にどうということはないのですが)。

さて、2030年というと、いまから9年後。

本書を読まなくとも時代は相当変わっていることが(ある程度は)想像できます。

逆に今から10年前を振り返ってみるとどうでしょう。

現在の情景は当時(10年前)には想像もつかなかったような気がします。

たとえばウーバーイーツで注文して昼食や夕食を食べることが都心でリモートで働く多くの人にとっては日常化してきています。

ちなみにウーバーは配達員を20万人へと倍増し、今年中に日本全国にサービス展開するのだとか(『こちら』)。

なおウーバーイーツが始まったのは米国で2014年、日本では2016年です。

10年前というと、スマホも iPhone4 が2010年に出たところ。

このときは3Gの世界です。

4Gのサービス開始は2015年。

クラウドも今ほど一般化していませんでした。

そしてなによりもウィンドウズは「7」でした(「10」のリリースは2015年)。

以下は『2030年』の一節です(47頁)。

「2006年には小売業は絶好調だった。

シアーズの時価総額は143億ドル、ターゲットは382億ドル、ウォルマートはなんと1580億ドルだった。

一方アマゾンと言う名のベンチャーのそれは175億ドルだった。

それが10年後にはどうなっていたか。何が変わったのか。

大手小売業は苦境に陥った。

2017年にはシアーズの時価総額は94%減少し、わずか9億ドルとなり、まもなく倒産した。

ターゲットはもう少しましで、550億ドルになっていた。

最も成功していたのはウォルマートで、時価総額は2439億ドルに増加していた。

だがアマゾンはどうなっていたか。

『エベリシングストア』の時価総額は2017年には7000億ドルに膨らんでいた(岩崎注:先週末現在1兆5110億ドル)」。

このように10年経てば、世の中は圧倒的に変わります。

もう一つの例。

2000年のことです。

ネットフリックスのCEO、ヘイスティングスは、何か月もアプローチした結果、やっとのことでブロックバスターのCEOに会うことが出来ました。

当時のブロックバスターはヘイスティングの言葉によると

「ぼくらの1000倍もデカい」会社でした。

「5000万ドルでネットフリックスを買収して欲しい」

ヘイスティングスは、こうブロックバスターに頼みますが、断られてしまいます。

しかしそれから10年後の2010年。

破産したのはブロックバスターの方でした。

今ではネットフリックスの時価総額は、2287億ドル。

「高すぎる」とブロックバスターに言われた5000万ドルの4500倍以上になっています。

このように10年間という期間は世の中を大きく変化させてきました。

しかし『2030年』の著者は「これから先の10年間はきっともっと凄いに違いない」と考えます。

「exponential (指数関数的)な変化」、

「Turbo-Boost(ターボ・ブースト)」(注:翻訳本では訳出されず)とか

「The Acceleration of Acceleration(加速が加速する)」

といった言葉が出てきて、これからの10年は「サプライズに満ちたものになる」と予想します。

本書に出てくる「ハイパーループ」。

「磁気浮上技術を使い、筒状の真空チューブ内で乗客を乗せたポッド(車両)を最大時速約1200キロで走行させる、高速交通ネットワークだ。

うまくいけばカリフォルニア州を35分で横断できる。

商業用ジェット機を上回る速さだ」(本書41頁)。

「最高技術責任者のジーゲルはこう語る。

『ハイパーループが存在するのは、パワーエレクトロニクス、計算論モデリング、材料科学、3Dプリンティングの加速加速度的進歩のおかげです。

計算能力が非常に高まったので、今ではハイパーループのシステム全体の安全性と信頼性をクラウド上でシミレーションできるようになりました。

さらに製造面のブレークスルーとして、電磁気システムから大規模なコンクリート建造物までを3Dプリンティングで製造できるようになり、コストとスピードが飛躍的に高まったんです』

このようなコンバージェンスの結果として、今では世界中で大規模なハイパーループ・ワンのプロジェクトが10件進行中だ。

開発のステージはさまざまだが、シカゴとワシントンを35分で結ぶプロジェクト、プネからムンバイまで25分で結ぶプロジェクトなどがある。

ジーゲルによると

『ハイパーループは2023年の認可取得を目指しています。

2025年までに複数のプロジェクトの建設を進め、乗客を乗せた試験走行も実施する計画です』」(本書42頁)。

イーロン・マスクが最初にハイパーループの概念について語り始めたのは2012年。

2014年にはハイパーループ社を設立。

2017年には英バージングループ(the Virgin Group)創設者ブランソン(Richard Branson)の資本を受け入れ、バージン・ハイパーループに社名変更。

コロナ禍の昨年11月8日(日曜日)の夕方です。

人間を乗せた最初の試験走行がネバダ州の砂漠で行われました。

走行距離はたったの500メートル。

それでも時速173キロに到達したのだとか・・(注:いずれ時速1200キロになることを目指している)。

実験に参加したのはサラ・ルチアン(Sara Luchian; director of customer experience)と最高技術責任者のジョシュ・ジーゲル(Josh Giegel)。

このときの様子は『こちら』の動画(1分31秒)でご覧いただけます。

Hyperloop

(写真はハイパーループのポッド内のジョシュ・ジーゲル(左)とサラ・ルチアン(右))

10年後の未来はこのように明るいものであって欲しい・・。

こう切に願うところですが、一方で警鐘を鳴らす人もいます。

バークシャーハザウェイの副会長、チャールズ・マンガ―(97歳)。

いわく、

『現在流行っているSPAC(特別目的買収会社)はクレージーな投機だ。

上場されるべき会社はまだ発見もされていないし特定もされていない(注:空箱のまま上場するので)。

これは腹立たしいほどのバブルだ。

投資銀行はこんな糞のような金融商品であっても売れるものは何でも売る。

こんな商品がない方が世の中は上手く行くのに・・。

SPACの熱狂は悪い結果に終わるに違いない。

それがいつになるかは知らないが』『こちら』および『こちら』)。

デストピアが来ないことを祈ります。

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