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2022年8月27日 (土)

パウエル議長のスピーチ

マス釣りで有名なワイオミング州ジャクソンホール。

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1982年、FRBカンザスシティは、ポール・ボルカーFRB議長(当時)がフライ・フィッシング好きであることを知り、ここで会議を開けば議長に来てもらえると考えました。

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そして首尾よく議長を招くことに成功しました(詳しくは『こちら』)。

以来、毎年、ここでFRB議長がどんなスピーチをするのか、注目されるようになりました。

* * *

今年のパウエル議長のスピーチは、8分53秒という短いもの。

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『こちら』でスピーチの動画を再生し、ご覧いただくことが出来ます。

「英語が苦手だ」という方にお勧めなのは、スピーチの原稿が公開されていますので、原稿を目で追いながらスピーチを聞くという手法。

ただ単に英語の原稿を読むよりも(目と耳の両方ですので)頭の中に効率的にメッセージが入ってくるような気がします。

原稿は『こちら』でご覧いただけます。

(YouTubeの動画で英語字幕を出すことも出来ます。)

以下、ポイントとなる箇所を順を追って記しますと:

(1)今日の私の発言は従来よりも短く、焦点を絞ったもので、メッセージは直截的なものになるだろう。

Today, my remarks will be shorter, my focus narrower, and my message more direct.

(2)高い金利は家計やビジネスに痛みをもたらすだろう。残念なことに、これらはインフレを低下させる上でのコストだ。しかし物価安定を取り戻すことの失敗は、はるかに大きな痛みを意味することになるだろう。

they will also bring some pain to households and businesses. These are the unfortunate costs of reducing inflation. But a failure to restore price stability would mean far greater pain.

(3)7月の消費者物価指数はインフレが低下していることを示すもので歓迎されるものだが、1ヶ月の改善だけでは、FRBとしてインフレが低下していると確信するには、ほど遠い。

While the lower inflation readings for July are welcome, a single month's improvement falls far short of what the Committee will need to see before we are confident that inflation is moving down.

(4)7月のFOMCミーティングは(6月に続いて)2回目の0.75%利上げを決めたものだった。このとき私は次の(9月の)会合でももう一度このような通常以上に大きな利上げ(unusually large increase)が適切になるかもしれない(could be appropriate)と述べた。

 July's increase in the target range was the second 75 basis point increase in as many meetings, and I said then that another unusually large increase could be appropriate at our next meeting.

(5)どこかの時点で、つまり金融政策のスタンスがさらに引き締まるにつれて、金利増加のペースを遅くすることが適切になりそうだ。

At some point, as the stance of monetary policy tightens further, it likely will become appropriate to slow the pace of increases. 

* * *

スピーチの内容としては至極妥当なもの。

『9月の利上げ幅は、今後のデータや見通しを踏まえ、総合的に判断する』(Our decision at the September meeting will depend on the totality of the incoming data and the evolving outlook)とも述べていて、あくまでも「現時点で言えることはこれだけ」とのスタンスでした。

そうすると、益々『今後のデータ』に注目が集まってきます。

8月の米国CPI(消費者物価指数)は9月13日(08:30 AM、米国時間)に発表されます。

そしてFOMCが9月20日-21日に開催されます。

はたしてパウエル議長は、景気を後退させずに物価を沈静化させるという、針の穴に糸を通す(going through the eye of a needle)ような難しいオペレーションを成功裡に成し得るでしょうか。

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2022年8月21日 (日)

不都合な事実

残念なことだが、最近、いろいろなところで「日本の地位が低下している」と報じられる。

正直、こういったニュースはあまり目にしたくない。

しかし事実から目を背ける訳にもいかない。

OECD(経済協力開発機構)の調べによると、高学歴労働者にとって魅力ある国のランキングで、日本は35ヵ国中、25位。

スロバキア(20位)や韓国(23位)よりも下位に甘んじる。

つまり日本が来て欲しいと思うような外国人は他国を選んでしまい、なかなか日本に来てくれない。

「日本の片思い」に終わってしまう可能性が高いのだ。

しかし・・

何も外国人に頼る必要もないだろう。

日本人で頑張ろう。

そう思っても、

実は・・

日本人の労働生産性が最近はぐんと低くなっている。

OECD38ヵ国中、28位。

トルコ(21位)、韓国(24位)、ポーランド(27位)よりも下だ。

これは、ひょっとすると病巣は意外と深いのかもしれない。

よく言われることだが、日本ではいったん大学に入ってしまえば卒業するのはさほど難しくない。

日経新聞(8/15号)によると大学を標準年数で卒業する比率は、米国38%、仏国41%。

これに対して日本は何と93%!

それでも昔は企業が新卒者を、お金をかけて教育してくれた。

だから、まだ良かったんだ。

それが実は・・・。

最近では、この辺も違ってきているらしい。

* * *
そんなことをいろいろと考えながら、日経新聞(電子版)と日経ヴェリタス紙(本日発売号)に寄稿しました(『こちら』でご覧いただけます)。

(注)下記画像は日経新聞社の出版権に配慮し敢えてお読みいただけないようにしています。『こちら』でお読みいただければ幸いです。Veritas_20220821001701

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2022年8月19日 (金)

ドキュメンタリー映画『ウォーレン・バフェット氏になる』

2017年1月にHBOから配信されたドキュメンタリー映画、『ウォーレン・バフェット氏になる』

アマゾン・プライムの『こちら』でご覧になれます(1時間28分)。

映画を観たからと言って、バフェットになれる訳でもなく、観た人の投資にそれほど役に立つわけでもありません(もちろん役に立つ金言は出てきますが・・)。

映画が撮影されたのは2016年。

ウォーレン・バフェットが86歳の時です(彼は今月末で92歳になります)。

毎朝、ネブラスカ州オマハ市の自宅から自分でクルマを運転してオフィスに出勤するバフェット。

彼は54年間、毎日、これをやり続けていると言います(注:新型コロナが猛威をふるっていた時は自宅で仕事をしていたそうです)。

映画が撮影された86歳の時、バフェットが保有する個人資産は673億ドル(1ドル130円換算で8兆7000億円)。

にもかかわらず彼が住む家は特段の豪邸でもなく、普通の家で、オフィスも普通(オフィスは人と人がすれ違えないほど廊下が狭い)。

運転するクルマもベンツやレクサスではなく、普通のアメ車(GM車、まぁ一応キャデラックでしたが・・)。

もちろん運転手が別にいる訳でもなく自分で運転。

オフィスに着いて、誰かが出迎えてくれる訳でもありません。

日本では年収1億円以上の報酬を得ている上場企業役員が652人いると言いますが、

恐らくは、その多くは毎朝運転手が自宅に迎えにきてくれて、

会社まで送っていってもらうという生活をしているかと思います。

さて、バフェットですが、

毎朝、自宅から会社へ向かう途中、地元のマクドナルドに寄ります。

そしてマックのドライブスルーで朝食を注文。

日によって選ぶメニューが違い、2ドル61セントだったり、2ドル95セントだったり、3ドル17セントだったりするのだとか。

これを袋に入れてもらって、オフィスに持ち込み、自分の席でマックの朝食を食べます。

現在、時価総額6,700億ドル(87兆円)、世界第7位のバークシャー・ハサウェイ社には、昔も今も25人のスタッフしかいない(オフィスで働いている人数)と言います。

広報部や人事部などなく、コミティ―(委員会)という名の組織も一切ない。

「形式的なものは肌に合わないんだ」とバッフェト。

映画は、地元の高校生のクラスに招かれ、そこでのバフェットによるスピーチを軸に進められていきますが、バフェットが住む家、働くオフィス、そして家族や会社の仲間を見ることが出来て、興味深いものでした。

13歳の時にすでに所得税の確定申告をしていたというウォーレン・バフェット。

やはり常人ではありません。

映画を観終わっての感想ですが、バフェットにとっては、投資こそが、もっともフェア(公平)な戦いの場であったのだと思います。

そして彼はその戦いを見事に勝ち抜いてきたのでした。

金額の多寡、プロアマを問わず、少しでも株式投資の世界に触れている人には一見に値する映画だと思いました。

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2022年8月13日 (土)

企業投資情報部

昨日OCA TOKYO でミーティングを持ったこともあり、興銀時代のことを少し書いたのですが、その続きを少し・・。

私は(昨日書いた)営業第3部の後、企業投資情報部という部署に移り、2年近くいました。

当初は結構な大所帯だったのですが、直ぐに機構改革があり、私が担当することになったセクション(班)は、

私(班長)のほかに、総合職の担当者が3名というこぢんまりとした陣容。

3人とも優秀で、班長の私は随分と楽をさせてもらいました。

今となっては懐かしいサラリーマン時代の思い出ですが、振り返ってみると、サラリーマンというのは、どんな上司に仕えるのか、どんな部下がやってくるのか、自分では選べないことが多い・・。

つまり今風に言うと、ガチャ(運)に左右される要因が強いように思います。

当時、私の班にいた総合職3人のうち、

1人は、現在の「みずほ銀行副頭取」(副頭取執行役員)、

もう1人は、現在の「みずほ証券副社長」(副社長執行役員)

になっています。

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2022年8月12日 (金)

OCA

かつて興銀ビルが建っていた場所は、みずほ丸の内タワー(29階)と丸の内テラス(10階)になっています。

このうち丸の内テラスは1~2階と9~10階がレストラン。

3~7階がプライベートクラブの「OCA TOKYO(オーカトウキョウ)」。

本日はOCAメンバー、A氏のホストで、OCAでミーティングをしてお昼をご馳走になってきました。

A氏は、私が興銀出身であることを知っていて敢えてOCAでのミーティングをセットしてくれたのだと思います。

やはり懐かしかったですね。

ミーティングは5階で行われたのですが、かつて私がいた営業3部もたしか5階(?)にあったように記憶しています。

向かいのビルも生まれ変わっていましたので、5階から見る景色は、かつてとは違っていました。

それでも、通り(丸の内仲通り)からの高さとか、向かいのビル(永楽ビル)との距離感とか、以前と同じ!

なんとなく昔の雰囲気が感じられました。

ミーティング後、5階のフロアをうろうろ回りながら、

「たしか営業3部はこの辺にあり、私の席はこのあたりでした。部長は窓際で、この辺・・」

とAさんに説明。

営業3部にいたのは92年~97年ですので、今から25年~30年前。

時が経つのは早いものです。

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2022年8月 9日 (火)

人手不足

欧米ではリオープン(経済再開)と称して、空運やホテル、レジャーなどで「リベンジ消費」が本格化。

しかし一方でその足かせとなっているのが人手不足。

英ヒースロー空港では、チェックインカウンターに長蛇の列ができ、預け入れ荷物が大量に放置されるなどの事態がおきました。

ドイツでは、7月27日に、ルフトハンザ航空がフランクフルトやミュンヘンのフライトを殆ど全てキャンセル。

理由は、人手が圧倒的に足りていない状況下で、空港のグランドスタッフが「やってられない」とばかり、1日だけですが、walk-out する形のストライキに打って出たことにあります(結果、従業員たちはその後、昇給を勝ち取りました)。

深刻な人手不足はなぜ起きているのでしょうか。

たとえば欧米の航空会社の場合、新型コロナのパンデミックが発生した際に、客室乗務員、空港のグランドスタッフなどの多くをレイオフしました。

その後、経済がリオープンするようになり、飛行機を再びどんどん飛ばすような状況になっても、レイオフした人たちは簡単には戻ってくれません。

この2~3年の間に(レイオフされた)多くの人たちはすでに他で職を見つけて、そこで働いているからです。

それでは新規の採用をすぐにかければ良いではないか。

こう思う方も多いでしょう。

しかし、新規の採用は即戦力になりません。

客室乗務員にしても、B-777に乗れるようになるには、トレーニングセンターでそれなりのトレーニングを積む必要があります。

研修とトレーニングの結果、B-777で勤務可能になっても、B-767やB-737にはまた別のトレーニングが必要。

もちろんエアバスに乗れるようになるにはエアバス用の研修・トレーニングが要求されます(エアバスも機種がいろいろある)。

こうした状況が背景にあり、しかも経済のリオープンのペースが速すぎた結果、

人の補充が追いつかず、人手不足が深刻化してしまったという訳です。

翻って、日本。

日本の場合は少し状況が違います。

新型コロナのパンデミックに襲われたとき、

たとえばJALやANAの客室乗務員はノジマやイオンリテールなどに出向させられました。

給与の差額分(もし生じた場合)は、JALやANAが払いました。

もう少し具体的に記しますと、

20年11月から、JALとANAからの出向者を受け入れていたノジマの場合、最大で約250人のJAL、ANA社員が働いていたと言います。

そして今年5月、航空需要の回復を受けて、ノジマは両社からの出向受け入れを終了させています。

経済が、いざリオープンする場合には、日本のやり方の方が即戦力を再配置させやすいような気がします。

昨日出演した日経ヴェリタストークでは、人手不足やインフレなど、リオープンに際して「立ちはだかる壁」について検証しました。

『こちら』で動画をご覧いただけます。

Hi

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2022年8月 6日 (土)

米国のインフレは終息へと向かうのか、それとも、まだまだなのか

【1】米国長期金利推移

米国の長期金利(10年もの国債利回り)は6月14日に3.483%をつけた後、下落に転じて、8月1日には2.606%をつけていました。

10-yr-t-yield

【2】為替レート推移

これに呼応するように、為替相場も7月14日、139.39円/$から、8月2日、130.39円/$へと円高に推移。

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半月で9円も円高に振れたので、FXのトレードをされている方にとっては緊張する相場展開だったと思います。

こうした相場展開の背景には、FRBによる度重なる利上げで、米国は景気後退局面に入るのではないか(あるいはもうすでに入っているのではないか)との見方が台頭してきたことがあります。

【3】FRBによる利上げ推移

FRBによる利上げ推移を見ておきましょう。

Fed-fund-rate

(1)22年3月16日に0.25%利上げして、利上げ後:

0.25~0.50%(Fed Funds Rate target rate)

(2)22年5月4日に0.50%利上げして、利上げ後:

0.75~1.00%(Fed Funds Rate target rate)  

(3)22年6月15日に0.75%利上げして、利上げ後:

1.50~1.75%(Fed Funds Rate target rate)  

(4)22年7月27日に0.75%利上げして、利上げ後:

2.25~2.50%(Fed Funds Rate target rate) 

【4】原油価格推移

一時は120ドルを超えていた原油価格(WTI)も88ドルにまで落ち着いてきました。

Wti_20220806160201

【5】消費者物価(CPI)推移

それでは肝心の消費者物価はどうなのかというと、7月のCPIは8月10日(8:30AM)の発表を待たなくてはなりません。

今年2月以降の推移は:

2月 7.9%

3月 8.5%

4月 8.3%

5月 8.6%

6月 9.1%

以下は2012年以降のCPI推移のグラフと表です。

Cpi

Cpi_20220806161101

【6】雇用統計

こうした中で昨日発表された米国の7月雇用統計。

非農業部門の就業者数は前月比で528,000人増加(事前予想250,000人)。

失業率も3.5%に低下。

以下、2012年以降の失業率推移のグラフと表です。

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新型コロナのパンデミックが始まる前、米国での就業者数は152.5百万人いました。

それがコロナの影響で22百万人減少しましたが、今や、コロナ禍前の水準に戻ったと解されています。

以下は昨日のNY Timesのグラフ。

Ny-times

【7】どう読むか

こうした雇用の強さはどう解すべきなのでしょうか。

米国経済はまだ景気後退には陥っていないのではないか。

だとすると、心配になってくるのはインフレ率の方です。

7月の平均時給は前月比0.5%増となり、事前予想の0.3%増を上回りました。

一昨日までの段階では、次回のFOMC(9/20~9/21)には、0.5%の利上げを予想する市場関係者が多かったのですが、上記雇用統計の発表を受けて、一転、0.75%の利上げを予想する人が増えてきました(大半が0.75%を予想)。

こうした結果を受けて、

昨日1日で、10年もの米国債利回りは2.84%に跳ね上がりました。前日は2.676%でしたので、0.164%の上昇、率にすると6.13%(=0.164÷2.676)になります。

S&P500は、0.16%下落し、為替は135円へと2円近くも円安に触れました。

さて、10日(米国時間)に発表される7月のCPI。

これはいったいどういったものになるのでしょうか。

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