なぜウォーレン・バフェットは市場を予測しないのか?
元々はペプシの愛飲者だったウォーレン・バフェット。
なぜ彼はコカ・コーラにスイッチしたのか。
そしてバフェットが「そもそも市場がどうなるかを予測したことがない」と語る真意とは・・?
本日の日経新聞(電子版)に寄稿しました(明後日の日経ヴェリタス紙にも掲載されます)。
『こちら』です。
元々はペプシの愛飲者だったウォーレン・バフェット。
なぜ彼はコカ・コーラにスイッチしたのか。
そしてバフェットが「そもそも市場がどうなるかを予測したことがない」と語る真意とは・・?
本日の日経新聞(電子版)に寄稿しました(明後日の日経ヴェリタス紙にも掲載されます)。
『こちら』です。
以下、質問とそれに答える形で書いていきます。
* * *
1.なぜ米国では投資信託が普及してきたのか?
401Kの存在が大きい。
米国の就業者の3人に1人が401K(年金資金積立制度)で「積み立て」をしている(『こちら』及び『こちら』)。
日本でも日本版401Kと呼ばれる確定拠出年金が導入されたが、企業型とiDeCoOを合わせても就業者の14%を占めるに過ぎない。
制度の充実ぶりも違う。
米国の401Kでは年間、約300万円まで非課税で積立可能(50歳以上は約380万円)。
これに対して日本では企業型の場合、上限が年66万円、iDeCoの年間上限は自営業者の場合で81.6万円。
2.分配金の出る投資信託と、出ない投資信託 ー どちらが良いか
人によって好みの違いはあるのだろうが、分配金でもらってしまうと、複利効果は期待できない。
分配金を払わないもの(無分配型)はその分、分配金相当額が運用され、基準価額に反映される。
また分配金には約20%の税金が源泉徴収される。
「無分配型」では、少なくとも今は税金がかからないという、「課税の繰り延べ効果」も期待できる。
3.バフェットがオマハでファンドを始めた時に投資した人は相当のリターンを上げていると聞くが・・?
バフェットがバークシャー・ハサウェイ社を買った後のバークシャーの株価推移で見てみる(それ以前に投資した人はもっと巨額のリターンを上げていることになる)。
バフェットがバークシャーをコントロールした後の株価を追うと、約36,000倍になっている。
つまり1965年当時100万円を投下した人は、現在364「億円」を手にしている(為替の影響は考慮せず)。
92歳になった今でもバフェットは機敏に投資判断を下している。
新型コロナが蔓延すると見るや、ただちに持っているエアライン(航空会社)株を全額売却。
今年に入ってからは石油会社(Occidental Petroleum)の株を積極的に買っている。
* * *
なお昨日出演した日経CNBCテレビ『日経ヴェリタストーク』ですが、『こちら』で動画をご覧頂けます。
日銀の資金循環統計によると、家計部門の金融資産は2005兆円(『こちら』)。
日本人の人口(8月発表分)122,444千人で割ると1人当たり1637万円。
これを多いと見るか、少ないと見るか・・。
ところで、何回も報じられてきたことですが、日本人は金融資産を現預金中心にして持っています。
すなわち2005兆円の金融資産のうち、現金預金が54.3%。
株式は204兆円で全体の10.2%。
投資信託(91兆円)は4.5%を占めるに過ぎません。
* * *
『株式は単一銘柄で持つと値下がりリスクが怖いけど、投資信託なら複数銘柄がパッケージにされているので、幾分安心、しかし手数料は?』
一般的には、投資信託に対して、こういった印象を持つ人が多いのではないでしょうか。
投資信託の手数料には(1)購入する時に取られる「購入時手数料」、(2)保有している間ずっと取られる「信託報酬」、(3)解約(売却)時に取られる「信託財産留保額」の3つがあります。
しかし(1)と(3)については、これをゼロとする投資信託も出現するようになっています。
とくに(1)についてゼロとする販売会社(証券会社など)は、ノーロードと称して積極的にPRしています。
しかしこれは彼らにとって、報酬ゼロでの販売を意味している訳ではありません(慈善団体ではないので)。
実は、(2)の「信託報酬」は、委託会社、販売会社、受託会社3者に対して分け前が配分されます。
つまり販売会社は信託報酬の中から自分たちの分け前をきちんと得ています。
ところで、最近では「野村スリーゼロ先進国株式投信」のように、
「(1)、(2)、(3)とも全てゼロにする」といった投資信託も出てきています(『こちら』)。
3つともゼロだとすると、販売する金融機関や運用する金融機関は「いったいどこで収益を上げるのか」、疑問に思われるかもしれません。
野村スリーゼロの場合は(2)がゼロなのは2030年末までと期間限定となっています。
* * *
さて投資信託を購入する場合、どこに気を付けるべきでしょうか。
(A)過去の実績を見て、納得がいくものかをチェック
株価指数(TOPIX、S&P500など)に連動する運用を目指すインデックス・ファンド(パッシブ・ファンドとも言います)については、ベンチマーク(運用する際に目標とする指数)にきちんと連動しているか。トラッキング・エラー(ベンチマークに対する「運用誤差」「乖離度合い」)がないか。
独自の運用を目指すアクティブ系のファンドの場合、指数以上のリターンを上げているかどうか(例:米国株式を多く組み入れるファンドであれば、S&P500以上のリターンを上げてきたかどうか)
なお過去の実績をチェックする場合、10年間といった長期だけでなく、例えば今年2月以降の基準価額の変化をチェックすることもお勧めします。
過去10年は米国のアップルなどテクノロジー株を組み入れたところが高いリターンを出しました。
しかし今年に入っての下げ相場で、そういったファンドはどういったパフォーマンスを上げているのか。
アクティブ系の場合、少なくとも(例えば今年の2月1日以降で見て)S&P500以上のリターンを上げていることを期待したいところです。
ちなみにS&P500の場合、2月1日 4546.54 → 9月16日 3873.33 ですが、円ベースでは523,580円 → 554,312円と7か月半で 5.9%上昇しています。
(B)手数料はどうか
とくに上記(2)の信託報酬は、投資信託を保有している間ずっと取られるので注意が必要。
たとえ年率1%であっても10年持てば10%になります。
この手数料ゆえに、多くのアクティブ系ファンドは指数に負けてしまうといった結果に陥ってしまいます。(もちろん指数以上のパフォーマンスを上げている投資信託もたくさんあります)。
なお手数料としては上記(1)、(2)、(3)のほかに、「その他の費用、手数料」もかかります。
具体的には保管費用、監査費用、株式売買手数料などですが、これは目論見書においては具体的金額が明示されていません。
運用報告書を見て、これまでの実績値として、どのくらいかかったのか、頭に入れておいた方がいいと思います。
(c)ETFも検討してみる
投資信託は買う時も売る時も、注文を出してから幾らの基準価額で約定できたのか、マーケットが終わって数時間しないと分かりません(翌日や翌々日に報告されてくるケースも多くあります)。
一方、ETF(上場投資信託)の場合は、普通の株式取引と同じように相場を見ながら売買出来て、指値も出来ます。
指数に投資することを目的にインデックスファンドを選ぶならば、ETFに投資することを考えてみても良いと思います。
ETFは幾つもありますが、例えば米国株の指数に投資する場合、ファンドの純資産額やGross Expense Ratio(経費)などを考えて、ティッカー・コードで、SPYや VOO (いずれもS&P500に連動)、DIA(ダウ平均に連動)などが良いかと思います。
少し前の記事ですが、今年6月6日の日経新聞(『こちら』)。
『日本の個人マネーが海外株に殺到している。
国内の投資信託を経由した海外株への投資額は2021年に8兆3000億円に膨らんだ。
日本株への投資額(280億円)の300倍近くにのぼる。
資本効率などで優れる海外企業を選好しているためだ。
家計の資金が海外に逃避する「キャピタルフライト」の気配もあるようで、危うさが見え隠れする』。
さらに記事は続けて、
『21年の日本国内の株式投信を通じた海外株投信への純流入額のうち、米国株はその9割程度を占めるとみられる』。
たしかに今後の成長力という点からすれば、日本への投資よりも米国企業への投資の方がリターンを生みそうです。
なによりも日本の人口は21世紀末には現在の半分以下の5972万人(高齢化率38.3%)になると予想されます(令和2年国土交通省「国土の長期展望」資料、『こちら』)。
もちろん日本の企業も海外市場に活路を求めるところが多くなっているのですが・・。
* * *
ところで、一部には、米国株のインデックスに投資しておけば大丈夫とばかり、盲目的に米国株インデックスを信仰している人もいます。
おそらくは長い目で見れば、株式投資の中では米国株インデックス(S&P500、またはダウ平均)がいちばん安心できるのだとは思います。
しかし投資とはやはりリスクを伴うもの。
リスクを伴うからこそ、リターンを(おそらくは)望めるのです。
以前、日経新聞(および日経ヴェリタス新聞)に寄稿しましたが(『こちら』)、
大恐慌(1929年)の時に米ダウ平均株価は下落しましたが、
元の水準に戻るのに25年間もかかりました。
リーマンショックの時は5年半かかっています。
こう書くと、
「大恐慌とリーマンショック、この2つは特別でしょう」
という人もいるかもしれません。
たしかにこの2つは特別なのでしょうが、株式投資に盲目的信仰は禁物です。
(Sun Valley Lake and Bald Mountain. PHOTO: NILS RIBI)(Photo from Travel & Leisure)
* * *
ウォーレン・バッフェトは1999年に「サン・バレー会議」(『こちら』)で次のように説明しました。
『1964年末のダウ平均:874.12
17年後の
1981年末のダウ平均:875.00』
『この17年間、経済の規模は5倍になりました。
フォーチュン500の売上は5倍以上成長しました。
それなのに、17年のあいだ、株価はほとんど動いていないのです』
(以上、A・シュローダー著『スノーボール(ウォーレン・バフェット伝)』(『こちら』)より)。
ちなみにバフェットのサン・バレーでのスピーチは後に語り継がれるようになりました。
ご関心のある方は上記著作に目を通しておくことをお勧めします。
伝統にあぐらをかいていては、やがては衰退する。
求められるのは常に革新を呼び起こし前進すること。
コカ・コーラの経営首脳はこう考えて結論を下したのかもしれない。
(以下、キーオ著 The Ten Commandments for Business Failure より)
* * *
当時、アメリカでペプシの販売数量が増えていた。
なぜか。
広告費や物流の問題でないのはたしかだ。
問題は何か別の部分にあるはずだ。
もしかすると100年近い伝統のある商品そのものに問題があるのではないか。
すぐに20万人(!)を対象に味覚テストが実施された。
製品名を示さずに、2種類の飲料を飲んで比較してもらう。
1つは現状のコカ・コーラ。
もう1つは甘みを濃くしたもの。
テストの結果は明らかだった。
甘みを濃くした方が評価が高かった。
当時のゴイズエタ会長も私(キーオ社長)も、原液の配合を一新する根拠は十分にあると考えるに至った。
コンサルタントと専門家の意見もこの考えを後押しした。
もちろん、それだけでは足りない。
さらに大量のテスト、そしてさらに大量の専門家。
フォーカス・グループ(マーケティングリサーチの一手法)、試験販売、ランダム・サンプル調査・・。
どの調査でも甘みを濃くした方が、いつも勝者になった。
そうして鳴り物入りで発売されたニュー・コーク。
1985年のことだ。
(From Wikimedia Commons)
街には楽団をくりだし、空にはアドバルーンを浮かべ、その他、あらゆる広告手段を総動員して、ニュー・コークの発売を後押しした。
メディアも積極的に取り上げ、世界的な大ニュースとなった。
その結果・・・
発売直後から、コカ・コーラのアトランタ本社には抗議の電話が殺到するようになり、その数が増え続けて、回線が一杯になった。
数週間の間に、40万を超える電話と手紙が殺到し、すべてがニュー・コークに反対するものだった。
ここで動揺してはいけない、方針を堅持すべきだと、専門家は助言した。
しかし、85歳のおばあさんが老人施設から電話をかけてきた。
たまたま会社のコール・センターを訪問していた私(キーオ社長)が電話を受けた。
「お若い方、わたしが若かったときの記念の品をもてあそんでいるのです。
コークが私にとってどんな意味を持っているのか、お分かりですか」
はっきり分かった。
問題は味覚ではないし、マーケティングですらない。
あれだけの専門家、あれだけのデータはすべて、誤解のもとだったのだ。
これは人びとの心の奥底の問題だ。
* * *
間違ったら、すぐにそれを認め、それを正す。
それがリーダーにとって必要なことだ。
ABCテレビでは人気番組が放送されている最中に、これを中断して、アンカーのピーター・ジェニングスが登場。
「コカ・コーラがもとの成分に戻る」
と報じた。
以下、再び、上記著作から。
『大企業が決定を下し、民衆が抗議し、大企業が間違いを認め、民衆が勝利したのだ。
消費者は競ってコカ・コーラを買い、売上は急増した。
われわれの間違いを許してくれただけでなく、ますます好きになってくれたのである』
* * *
ドナルド・キーオ著『ビジネスで失敗する人の10の法則』。
面白かったです。
なぜこんな面白い本にもっと早く気がつかなかったのだろう・・。