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2023年1月10日 (火)

『新・日本構造改革論 デービッド・アトキンソン自伝』

2021年5月に書かれたアトキンソンさんの『新・日本構造改革論 デービッド・アトキンソン自伝』

             Da

内容は95%までがアトキンソンさんの自伝です。

しかしその行間には、日本への愛情と、どうして30数年の間にこうまで日本の国際的地位が衰退してしまったのかについての考察と言うか、著者なりの問題意識がにじみ出ています。

つまり95%の部分は、表立っては日本の構造改革論は述べられてはいません。

しかし私にはこの部分こそが(間接的にであれ)本質的な病巣に迫っているような気がしました。

本質的な病巣。

それは教育の問題と、その結果生まれた、日本社会のみで通用する、エリートと目される一部日本人のアロガンス(arrogance;傲慢さ)にあるのではないか、と私は読み取りました。

アロガント(arrogant)な人は学ぼうという意識に欠けます。

さて・・。

本書の最初の5分の1はオックスフォード大学での経験の話です。

Times Higher Educationによるランキング(World University Rankings 2023)では:

1位:オックスフォード

2位:ハーバード

3位:スタンフォードとケンブリッジ(同順位)

39位:東大

と、オックスフォードは大学として世界第1位に評価されています。

オックスフォード1校だけでこれまで56名のノーベル賞受賞者を輩出。

そんなオックスフォードの凄さが本書を読むと伝わってきます。

1987年に大学を出たアトキンソンさんはアンダーセンに就職。

その後、投資銀行に転じ、90年~92年にソロモン、92年~2007年にゴールドマンで株式アナリストを務め、この間にトップアナリストとしての評価を確立しました。

本書の半分以上を占めるのがこのアナリスト時代の経験の話。

アトキンソンさんがアナリストとして分析し信じるところを書いたところ、それが評価される側の銀行経営者の逆鱗に触れます。

その結果、社内的にも難しい立場に追い詰められてしまいます。

同じ投資銀行でもアトキンソンさんと私とでは、勤務した会社や担当した職務も異なります。

それでも、実は私もアトキンソンさんと似たような経験をしました。

外資に移ってまもなく。

元勤務していた日本のA銀行のB常務から『来て欲しい』と連絡を受けました。

それまでB常務と私は、接点はなく、お互い顔を知っている程度。

A銀行の場合、頭取や常務への来客は役員来客用応接室へ通されます。

一方、行内の部長や課長が常務に呼ばれる時は、常務の部屋に行って、そこで打ち合わせをします。

さて私がA銀行を訪れると、秘書に案内されたのは、来客用応接室ではなく常務の部屋。

『会社を去った後でも(来客ではなく)仲間として認めてくれるのか』

そんな印象を持ったのを覚えています。

ところがそれから後が大変。

会って、開口一番、

『君のところのアナリストは何なんだ。

銀行に関するこんなレポートを書きやがって。

デリバティブだろうと何だろうと、君のところとはこれから一切取引をしないからな。

出入り禁止だ。

帰ったらそう伝えておけ』

と凄い剣幕。

当時、私はManaging Director でしたが、投資銀行部の所属で、しかも担当はTMT(Telecom, Media & Technology)。

A銀行をはじめ金融機関はFIG(Financial Group)の担当であり、そもそも銀行アナリストは投資銀行部とは全く別の独立した部署(株式調査部)が所管。

レポートの内容が気に入らないなら、書いたアナリストを呼んで、「この分析や数字は違う」と議論すれば良いのだろうに、と不思議に思ったのを覚えています。

本書を読むとアトキンソンさんはもっと大変な経験をしたことが分かります。

1985年、まだ学生だったアトキンソンさんが初めて日本を訪れた時、まだ日本人はそれほどアロガント(arrogant)ではなかったと思います。

しかし一部のエリートと称される日本人はいつの間にかアロガント(arrogant)になってしまった。

バブルによって経済が世界2位になってしまったことが影響したのでしょうか。

なお以上はすべて私の個人的な感想に過ぎず、本書にはそもそもアロガント(arrogant)といった単語さえ全く出てきません。

ただ日本のことを長く知る私の周りの米国人は『かつて日本人はpolite だったが、いつの間にか arrogant な人が増えてきた』とよく口にします。

私は、日本の衰退はこの辺に原因があるような気がしています。

なお本書は次のような人にお勧め。

1)教育に興味ある人、とくに

2)オックスフォード流の教育に興味ある人

3)コンサルタントに興味ある人(アトキンソンさんはソロモンに移る前、アンダーセンに勤務)

4)投資銀行に興味ある人(パートナーになる過程など社内ポリティックスがかなり赤裸々に描かれています)

5)株式アナリストに興味ある人

6)日本の1人当たりの生産性が世界27位、先進国中最下位であることの意味に関心ある人

7)バブル期後の日本の銀行の不良債権問題に関心ある人

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