「大波が来たら船の真正面からぶつかっていけ」
三國清三さんの『三流シェフ』。
ヒットした本なので読まれた方も多いと思います。
日経新聞に連載されている『私の履歴書』のようだとの感想を言う人もいますが、
私は、「この本は著者の若い頃の冒険を語った小説のようだ」(もちろん実話なのですが)
との読後感を持ちました。
フランス料理の歴史だとか、フランスの有名シェフたちの話とか、普通の人があまり知らない話も多く出てきます。
何よりも、ふだん我々が目にすることのない厨房の中。
そこで、いったいどんな世界が繰り広げられているのか、これはチョット興味津々・・。
かつて日本が世界を席巻した半導体製造では今や台湾が強くなり、液晶は韓国、台湾。
そういった現代において、日本が誇れる分野の1つが料理です。
たとえそれがフランス料理やイタリアンであっても、
日本人シェフはかなりの国際競争力を持つように思います。
日本を訪れる外国人の多くは、
日本で食べる食事が「美味しくてしかも値段が異様に安い」と舌鼓を打ちつつ驚嘆します。
* * *
北海道の増毛という漁師町から世界に飛び出した著者の若い頃は、波乱万丈、
文字通り小説のように面白い話が次から次へと展開していきます。
ただ、なぜか、私にとっていちばん印象に残ったのは、
超一流のシェフになっていく著者の「冒険」の部分ではなく、
著者の父親の一言。
漁師だった父親は冬の大荒れの海で著者にこう教えたと言います。
「大波が来たら逃げるな。船の真正面からぶつかっていけ」
「逃げようとして、波を横腹に受ければ船は沈む。大波が来たら、舳先を真っ直ぐ波に向けて思い切り漕ぐしかない」
詳しいことは忘れてしまいましたが、私が子供の頃に読んだ漫画にもこれと同じシーンが出てきました。
ジャワ島かどこかで、津波に襲われる船の話だったのですが、
舳先を真っ直ぐ波に向けることで見事、津波を乗り切った話です。
高校時代、AFSで留学した先の米国の家族(とくに父親)はヨットが好きで、荒波の中、一緒に航海したことが何度かあります。
その時も同じことを言われました。
「大波が来たら逃げるな。船の真正面からぶつかっていけ」
三國さんは、その後の人生で(恐らくは困難に際してのことでしょう)何度もこの言葉を思い出したと著書の中で述べています。
逃げたらダメです。
正面からぶつかるしかない。
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