シリコンバレー銀行の破綻
銀行の破綻というのは、起きるときにはスピードが速い。
あっという間に起きる。
(From New York Times, March 10, 2023)
「シリコンバレー銀行が危ない」
こう囁かれ始めたのが木曜日(米国時間。以下全て、米国時間)。
株価が水曜日の終値に比して、たった1日で60%以上も下落した(下図)。
「これは危ない。預金を引き出そう」と、預金者は銀行に殺到。
翌日の金曜日には、 あっという間にこの銀行の経営破綻が発表された。
米連邦預金保険公社(FDIC)がシリコンバレー銀行の事業を停止させ、同行の預金をFDICの管理下に置いたのである。
あまりに急速な展開で、預金を引き出せなかった人も多い。
シリコンバレー銀行の2022年末時点の総資産は2090億ドル(約28.2兆円)、預金残高は1754億ドル。
破綻した銀行の規模としては、全米の歴史上、2番目に大きい(下表)。
1984年に破綻したコンチネンタル・イリノイ銀行の5倍の規模だ。
銀行が破綻しても、日本では預金保険機構が元本1,000万円までの預金を保証してくれる。
米国ではこの保証金額は日本の3.4倍もあって、
連邦預金保険公社(FDIC)が25万ドル(約3400万円)まで保証してくれる。
しかしシリコンバレー銀行の場合、預金額の97.3%は25万ドルを超えていて、
保証の対象外となると報じられている(下表)。
なぜ、急に破綻したのか。
債券投資の失敗である。
金利がまだ低かった時(1年前)に、長期固定で債券投資をした。
FRBによる急速な利上げで、
昨年3月1日には 0.00–0.25%だった Federal funds rateは、現在では 4.50–4.75 %。
つまり 過去12か月間でFRBは金利を4.5%も上げた。
今月22日には更にもっと上がる(というのが市場の予想)。
仮に(市場金利が0.25%の時に)年0.25%の固定利払を約束する「10年もの債券(満期は10年後)」を100億ドル(1兆3500億円)ほど買って、
一方、市場での金利が4.75%になったと想定する(すぐに金利が4.5%も上がるという非現実的な想定だが、計算を簡単にするため)。
この債券を時価評価すれば64.8億ドルに減価してしまう(年1回の金利支払いで計算)。
つまりあっという間に35.2億ドル(4,752億円)ほどの損失を計上してしまうことになる。
金利が上昇する局面での固定金利ものの債券投資は怖いのだ。
かくして経営破綻してしまったシリコンバレー銀行。
ほかの銀行は大丈夫か。
米市場では似たような銀行もあるのではないかと囁かれ始めている。
さすがに大手銀行(JP Morgan や Bank of America など)は体力があるので問題ないだろう。
しかし First Republic Bank はどうか、といった固有名詞も上がり、マーケットは疑心暗鬼になっている。
ちなみにFirst Republic Bankの株価は水曜日の引値が115.00ドル。
それが金曜日には一時、45ドルにまで下落(6割以上の下落)。
しかし最終的には81.76ドルまで戻している(上図)。
FRBによる急速な利上げで傷ついているのは米国の銀行だけではない。
日本の銀行も米国債に投資しているし、日本の年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も
47兆913 億円(総資産の24.59%)を外国債券で運用している。
この部分の運用収益(損失)は、GPIFの運用報告書によると、2022年度第3四半期で2兆6,651円のマイナス(損失)となっている(下表)。
金融機関で傷つく先が出てきても、それがシステミック・リスク、つまり金融危機に結びつかない限り、
FRBは金利引き上げを続けるだろう。
繰り返しになるが、
「固定金利ものの債券投資は金利上昇局面では怖い。金利が上昇する場合のシミュレーション分析が不可欠」
この辺は、金融に従事する人であれば、最初に学ぶ「レッスン1」のはずなのだが・・。
シリコンバレー銀行の運用担当者や責任者は何をしていたのだろう。
ちなみにシリコンバレー銀行のCEOは10日ほど前に、自分の会社の株を約4.7億円ほど売却している(上表)。
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(なお以上の表やグラフはクリックすれば大きくなります)。
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