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2023年3月19日 (日)

債券は満期まで持っていれば安全か

【質問】債券は満期まで持っていれば安全ではないのか。

【答え】違います。

100億円の債券(例えば金利0.25%)を10年間持っていて、10年後の満期に100億円返ってきたとします。

持っている間の10年間、毎年、2500万円もの金利が支払われ(単純化のために年1回の利払いを仮定)、

しかも満期にきっちりと100億円が返ってくるのであれば、損が無いのではないか?

こう思う人もいるかもしれません。

たしかに、市場での金利水準が10年間の間にまったく動かないのであれば、損も得もありません。

しかし市場金利が動いてくると話が違ってきます。

なおここでは債券の信用リスクは無いものと仮定して話を進めます。

「債券投資に係る金利変動リスク」

に的を絞って話を進めたいからです。

さて・・

債券投資をして、市場での金利が0.25%から4.75%になってしまったとしたらどうでしょう。

(注:実際には1年間かけてFRBは金利を0.25%から4.75%に引き上げたのですが、計算を単純化するために、直ぐに上げるものと仮定)

あなたが10年後に受けとる100億円の実質的価値はもっと下がってしまいます(単純化のために金利=インフレ率と想定します)。

毎年4.75%ずつでインフレが進むと、10年後のお金の価値は100億円が62.87億円に減価してしまいます。

これは計算式にして、実際に計算してみると分かります。

すなわち

100億円(現在価値)

=100億円×(1÷1.0475^10)

となります。

ここで「1.0475^10」は1.0475の10乗を意味します。

1.0475の10乗は計算すると1.5905です。

つまり 

100億円(現在価値)

=100億円×(1÷1.5905)

=100億円×0.6287

=62.87億円です。

10年後、全てのものの値段が上がっている為、

10年後にあなたが受け取る100億円は62.87億円の価値しかないのです。

債券の投資家は10年後の元本だけでなく、

毎年金利を受け取ります。

10年間に受け取る金利の現在価値も併せて計算します。

1年目に受け取る金利の現在価値

=100億円×0.25%×(1÷1.0475)

=2387万円

同じように

2年目に受け取る金利の現在価値

=100億円×0.25%×(1÷1.0475^2)

=2278万円

このようにして

10年間に受け取る金利の現在価値を計算して行って、

その総和を 求めると:

1.95億円になります。

先ほど求めた10年後にあなたが受け取る元本100億円の現在価値に、

毎年受け取る0.25%の利息の現在価値を足し合わせることで、

100億円(年1回で利息0.25%を支払う)の債券の現在価値を計算することが出来ます。

すなわち

 62.87億円+1.95億円=64.82億円

となります。

つまり金利が0.25%から4.75%に上がると、

100億円の債券は64.82億円に減価します。

このように債券への投資は金利リスクを伴います。

米国の国債など信用リスクを殆ど無視し得るものであっても、金利が上がると減価してしまうのです。

計算すれば分かることですが、とくに満期までの年限が長いものほど(長期のものほど)減価の割合が高くなります。

いま起きている米国のシリコンバレー銀行、First Republic Bank、あるいは日本の地方銀行などの問題の背景には

こういった債券投資に固有のリスクが絡んでいます。

なお債券価格を算出する簡単なプログラム(Bond Calculatorなどと呼ばれる)や簡易の金融電卓などがあります。

金融に従事する人たちはこういった簡易プログラムを使って

上記の計算を瞬時に行っています。

しかし時には原理原則に戻って手書き計算をした方が意味あるし、背景のロジックも分かると思って

上記のような形で計算式を明記してみることにしました。

個人投資家に対して、1年前にこう近づいてきた金融機関の人も多いと聞きます。

「これからは米国金利が上がります。だから株は下がるので債券、それも米国債も含めてリスク分散しましょう」

この言葉を信じてしまった人のなかには

悲劇的な結果になってしまったケースもあるかもしれません。

残酷なようですが、以下、教訓です。

金融機関の言葉を鵜呑みにしてはいけません。

最後に、変動金利の債券に投資すればこの問題はほとんど解決しますが、債券市場全体に占める変動金利ものの割合は僅かなものです(チャットGPTに聞いてみたところ、2021年9月の数字で米国債で変動金利物は米国債全体の0.5%)。

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