『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』を読みました。
斬新なカバーで、否が応でも目に入ってくる・・装幀者を見たら水戸部功さんでした(『こちら』)。
この本は昨年米国で出た『The Future Is Faster Than You Think』の翻訳本。
原書の方は3部作の三冊目であることを『はじめに』で明記しているのですが、翻訳本ではなぜか原本の『FOREWORD』の最初の頁(3パラグラフ)が全て飛されて翻訳されず、3部作ということが分からないような形で出版されています(それ自体、翻訳本によくあることで、別にどうということはないのですが)。
さて、2030年というと、いまから9年後。
本書を読まなくとも時代は相当変わっていることが(ある程度は)想像できます。
逆に今から10年前を振り返ってみるとどうでしょう。
現在の情景は当時(10年前)には想像もつかなかったような気がします。
たとえばウーバーイーツで注文して昼食や夕食を食べることが都心でリモートで働く多くの人にとっては日常化してきています。
ちなみにウーバーは配達員を20万人へと倍増し、今年中に日本全国にサービス展開するのだとか(『こちら』)。
なおウーバーイーツが始まったのは米国で2014年、日本では2016年です。
10年前というと、スマホも iPhone4 が2010年に出たところ。
このときは3Gの世界です。
4Gのサービス開始は2015年。
クラウドも今ほど一般化していませんでした。
そしてなによりもウィンドウズは「7」でした(「10」のリリースは2015年)。
以下は『2030年』の一節です(47頁)。
「2006年には小売業は絶好調だった。
シアーズの時価総額は143億ドル、ターゲットは382億ドル、ウォルマートはなんと1580億ドルだった。
一方アマゾンと言う名のベンチャーのそれは175億ドルだった。
それが10年後にはどうなっていたか。何が変わったのか。
大手小売業は苦境に陥った。
2017年にはシアーズの時価総額は94%減少し、わずか9億ドルとなり、まもなく倒産した。
ターゲットはもう少しましで、550億ドルになっていた。
最も成功していたのはウォルマートで、時価総額は2439億ドルに増加していた。
だがアマゾンはどうなっていたか。
『エベリシングストア』の時価総額は2017年には7000億ドルに膨らんでいた(岩崎注:先週末現在1兆5110億ドル)」。
このように10年経てば、世の中は圧倒的に変わります。
もう一つの例。
2000年のことです。
ネットフリックスのCEO、ヘイスティングスは、何か月もアプローチした結果、やっとのことでブロックバスターのCEOに会うことが出来ました。
当時のブロックバスターはヘイスティングの言葉によると
「ぼくらの1000倍もデカい」会社でした。
「5000万ドルでネットフリックスを買収して欲しい」
ヘイスティングスは、こうブロックバスターに頼みますが、断られてしまいます。
しかしそれから10年後の2010年。
破産したのはブロックバスターの方でした。
今ではネットフリックスの時価総額は、2287億ドル。
「高すぎる」とブロックバスターに言われた5000万ドルの4500倍以上になっています。
このように10年間という期間は世の中を大きく変化させてきました。
しかし『2030年』の著者は「これから先の10年間はきっともっと凄いに違いない」と考えます。
「exponential (指数関数的)な変化」、
「Turbo-Boost(ターボ・ブースト)」(注:翻訳本では訳出されず)とか
「The Acceleration of Acceleration(加速が加速する)」
といった言葉が出てきて、これからの10年は「サプライズに満ちたものになる」と予想します。
本書に出てくる「ハイパーループ」。
「磁気浮上技術を使い、筒状の真空チューブ内で乗客を乗せたポッド(車両)を最大時速約1200キロで走行させる、高速交通ネットワークだ。
うまくいけばカリフォルニア州を35分で横断できる。
商業用ジェット機を上回る速さだ」(本書41頁)。
「最高技術責任者のジーゲルはこう語る。
『ハイパーループが存在するのは、パワーエレクトロニクス、計算論モデリング、材料科学、3Dプリンティングの加速加速度的進歩のおかげです。
計算能力が非常に高まったので、今ではハイパーループのシステム全体の安全性と信頼性をクラウド上でシミレーションできるようになりました。
さらに製造面のブレークスルーとして、電磁気システムから大規模なコンクリート建造物までを3Dプリンティングで製造できるようになり、コストとスピードが飛躍的に高まったんです』
このようなコンバージェンスの結果として、今では世界中で大規模なハイパーループ・ワンのプロジェクトが10件進行中だ。
開発のステージはさまざまだが、シカゴとワシントンを35分で結ぶプロジェクト、プネからムンバイまで25分で結ぶプロジェクトなどがある。
ジーゲルによると
『ハイパーループは2023年の認可取得を目指しています。
2025年までに複数のプロジェクトの建設を進め、乗客を乗せた試験走行も実施する計画です』」(本書42頁)。
イーロン・マスクが最初にハイパーループの概念について語り始めたのは2012年。
2014年にはハイパーループ社を設立。
2017年には英バージングループ(the Virgin Group)創設者ブランソン(Richard Branson)の資本を受け入れ、バージン・ハイパーループに社名変更。
コロナ禍の昨年11月8日(日曜日)の夕方です。
人間を乗せた最初の試験走行がネバダ州の砂漠で行われました。
走行距離はたったの500メートル。
それでも時速173キロに到達したのだとか・・(注:いずれ時速1200キロになることを目指している)。
実験に参加したのはサラ・ルチアン(Sara Luchian; director of customer experience)と最高技術責任者のジョシュ・ジーゲル(Josh Giegel)。
このときの様子は『こちら』の動画(1分31秒)でご覧いただけます。
(写真はハイパーループのポッド内のジョシュ・ジーゲル(左)とサラ・ルチアン(右))
10年後の未来はこのように明るいものであって欲しい・・。
こう切に願うところですが、一方で警鐘を鳴らす人もいます。
バークシャーハザウェイの副会長、チャールズ・マンガ―(97歳)。
いわく、
『現在流行っているSPAC(特別目的買収会社)はクレージーな投機だ。
上場されるべき会社はまだ発見もされていないし特定もされていない(注:空箱のまま上場するので)。
これは腹立たしいほどのバブルだ。
投資銀行はこんな糞のような金融商品であっても売れるものは何でも売る。
こんな商品がない方が世の中は上手く行くのに・・。
SPACの熱狂は悪い結果に終わるに違いない。
それがいつになるかは知らないが』(『こちら』および『こちら』)。
デストピアが来ないことを祈ります。